司法試験・予備試験・ロー入試に向けた会社法

司法試験上位合格者が会社法についてわかりやすく解説します

会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-10(設例10-2後半)合併の効力発生と権利義務の承継

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-10(設例10-2後半)の解答例を紹介します。

テーマは、合併の効力発生と権利義務の承継です。

重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう!

今回は、長いので、前半と後半の2回に分けて解説しています。今回は後半です。

前半の解説はこちらです↓↓

kaishahou.hatenablog.jp

 

(4)合併登記後に消滅会社名義で行われた売買の効果

Q9

本件売買は、すでに合併の効力が発生した後かつ合併登記も備えられた後になされており、 Q社もQ社代表者も法的に存在していない状況でなされたものであるから、Xは無権代表者から土地を購入したことになる。よって、本件土地の売買は無効である。

 

Q10

本件売買は、合併登記の後になされているから、P社はQ社消滅ひいては本件売買契約の無効をXに対抗することができる。(750条2項は合併登記まではQ社の消滅を第三者に対抗できないと定めており、登記後は第三者にQ社の消滅を対抗できる。)

よって、Xの本件請求は認められない。

 

Q11

合併による所有権移転登記の有無により違いは生じない。当該登記がされていなければ、登記簿上はQ社が所有者だが、不動産登記に公信力はないので、これを信じたXは保護されない。合併登記がある以上は、750条2項でP社は本件売買契約締結時にQ社とAの代表権がないことをXに対抗することができる(民法94条2項類推適用は排除される)。

よって、Q社からP社への所有権移転登記の有無に関わらず、P社はXの請求を拒むことができる。

 

(5)消滅会社が新株予約権を発行していた場合

合併における新株予約権の取り扱いは複雑である。

新株予約権を消却したい場合、自己新株予約権のみが消却可能なため(296条)、強制的に取得する必要がある。そのためには、事前に取得条項を新株予約権の内容に組み込んでおく(236条1項7号、273条1項)ことが必要。

消却しない(できない)場合、Q12の問題が生じる。

 

Q12

会社法では、合併時における新株予約権の取り扱いについて、➀~③の規律が設けられている。

➀まず、会社法236条1項8号イで、合併するときにQ社の新株予約権に存続会社の株式を交付するときは、その旨とその条件を新株予約権の内容として定めることができる。

 

②つぎに、➀の定めの有無にかかわらず、749条1項4号5号で、Q社が新株予約権を発行している場合、Q社の新株予約権に替えて、P社の新株予約権を交付するか、金銭を交付するかを合併契約において、定めることができる(「~を交付するときは」となっているので、合併契約の必要的記載事項ではない)。

 

③そして、787条1項1号で、②の定めが➀の定めに合致する新株予約権以外の新株予約権(つまり、発行時に➀の定めがない場合、合併契約に②の定めがない場合、➀と②の定めの内容が異なる場合)については、新株予約権買取請求権(Q社に対し、新株予約権を公正な価額で買い取りよう請求する権利)が新株予約権者に与えられる。

 

Q13

上記➀の定めがあったのに、 P社が新株予約権の交付を拒むときには、次の2つの場合がある。

1)➀の定めがあったにもかかわらず、そのような内容の②の定めがされなかったとき、787条1項1号の新株予約権買取請求権による保護があるので、大きな問題はない。

2)➀の定めと同じ内容で②の定めが置かれたが、P社がそれを履行しなかったとき、新株予約権買取請求権の対象ではない。新株予約権者保護の手段としては、合併無効事由に当たると解するほかない。新株予約権者保護の手続が履行されなかったといえ、債権者異議手続が履行されなかった場合と同様に、合併無効事由になると解してよい。

 

設例10-2後半の解説は、以上です。

今回のテーマは、重要なので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-10(設例10-2前半)合併の効力発生と権利義務の承継

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-10(設例10-2)の解答例を紹介します。

テーマは、合併の効力発生と権利義務の承継です。

細かい点もありますが、非常に重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

今回は量が多いので、前半と後半の2回に分けます。

今回は前半です。

 

(1)合併の効力発生前に消滅会社が行った取引の効果帰属

Q1

 Q社はXに土地の引渡義務と所有権移転登記義務を負う。

 

Q2

 本件では、合併の効力発生前にQ社代表取締役が法律行為をしており、合併の効力発生により、その法律行為の効果はQ社に帰属する。そしてQ社が負担した債務は、合併の効力発生によりP社に承継される。

すなわち、本件では7月31日にQ社が負担していた債務(Q1の債務を含む)がP社に承継され、XはP社に対して、土地の引渡しと所有権移転登記手続を請求することができる。

 

(2)合併の効力発生前に消滅会社が売却した不動産を合併の効力発生後に存続会社が他者に売却した場合

Q3

 合併の効力発生で、Q社が負担していた債務はP社が承継するから、P社自身が土地を売却した場合と同様の状態になる。その結果、QX間の売買とPY間の売買は二重譲渡の関係に立つことになる。 

 

Q4

Q3でみたとおり、二重譲渡と同様の法律関係であるから、 XとYの間では登記を先に備えた方が、本件土地の所有権を確定的に取得する(民法177条)。

 

(3)合併の効力発生後に消滅会社が行った取引の効果帰属

Q5

法務省の立案担当者によれば、合併の効力発生によって、Q社の財産や債務はP社に移転するが、会社法750条2項により、合併登記がされていなければ、第三者にQ社の消滅を対抗することができないとされる(合併の効力発生から登記までの間にQ社が第三者と取引をすると、法律関係が不明確になることから、750条2項という規定を設けて合併による会社の消滅は合併登記がなされるまでは第三者に対抗できないとされている)。

よって、合併登記までは第三者Xとの関係では、本件土地はQ社に帰属し、代表取締役Aはなおその処分権を有する者と扱われる。したがって、QX間の売買は有効で、Q社の財産・債務を承継したP社はXに対して、本件土地の引渡しの登記移転義務を負う。

もっともこの考え方に対しては異論もある(Q7参照)。

 

Q6

 Xが悪意であっても、合併の登記をしなければ合併の効力をXに対抗することはできない(750条2項は第三者の善意・悪意を問うていない)。

750条2項は、登記の効力に関する一般規定908条1項(登記事項は登記するまで善意の第三者に対抗できないとする規定) の特則である。

 

Q7

Q7の見解に立つ場合、QX間の売買とQP間の権利移転(合併による包括承継)は、二重譲渡類似の関係に立つ(したがって、先に登記を具備したほうが勝つことになる)。P社はQ社の債務を承継しないので、P社はXからの土地の引渡し等の請求に応じる義務はない(Xは登記がない限り対抗できない(民177))。

Q7後段のように、合併登記の後、P社が土地の所有権移転登記を備えれば、Xには救済がないことになる。

 

確かに、Q7の見解のとおり、QX間の売買は合併の効力発生後に行われており、P社はQ社からXへの土地の引渡し等にかかる債務を承継しないはずであり、 Q5で見た立案担当者の説明は理論的に問題が残る(Q7の見解の方が理論的ではある)。

しかし、合併の効力発生後から合併登記までにQ社がした行為の効力をP社に帰属させないとすると、750条2項を設けた意味がなくなる。Xを保護するためには、合併の効力発生後から合併登記までの間にQ社がした行為の効果をP社に帰属させなけれ竹濵修ばならない。

そこで、750条2項が置かれた趣旨から、750条2項は、合併の効力発生後から合併登記までの間にQ社がした行為の効果をP社が承継することも定めていると解するべきである。

このように考えれば、P社はQ社の債務を承継するので、XはP社に土地の引渡しや所有権移転登記手続を請求できる。

 

Q8

 吸収分割の場合は、750条2項のような規定はない。吸収分割でも一般承継はされるが、Q社は消滅せずに残っている。そのため、吸収分割の効力発生後もQ社が有していた特定の財産が分割の対象となってP社に移転したかは自明ではなく、会社分割では合併のように登記を基準とした画一的処理がしにくい(登記により分割があったことは分かっても特定の財産が分割の対象であったかは分からない)。よって、会社分割の登記には、合併の登記と同じような効力をもたせることはできないため、750条2項のような規定はなく、個々の財産の対抗問題として処理されることになっている。

Q8では二重譲渡関係が生じており、Q社からP社への会社分割による所有権移転登記とQ社からXへの譲渡による所有権移転登記の先後によって、P社とXの優劣が決まる(民法177条)。会社分割の登記は、P社とXの優劣に関係しない。

 

設例10-2前半の解説は、以上です。

今回のテーマは重要なので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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2021年(令和3年)司法試験考査委員(商法学者)

 

こんにちは、コポローです。

今日は、商法の司法試験員(学者枠)について、紹介したいと思います。

司法試験の出題は、主として学者委員が問題案を持ち寄り、投票・議論等を経て決まります。

ですので、学者委員の関心や考え方を知っておくことは有益です。

以下では、2021年の司法試験委員(商法学者)3名について、専門分野や著作を紹介します。

 

神作裕之(東京大学

東大卒 

主にドイツ法系(アメリカ法も)

研究分野は極めて広く、専門領域の特定は困難。強いて言えば、企業結合か。

参考リンク↓

http://www.kansaku.j.u-tokyo.ac.jp/

 

齊藤真紀(京都大学

京大卒

ドイツ法系 師匠は森本滋 

研究分野は債権者保護、企業結合など。

最近の著作等はこちら↓

京都大学 教育研究活動データベース

https://law.kyoto-u.ac.jp/kyoin/list/saito_maki/

 

 齋藤先生著作(共著)の教材↓

久保田安彦(慶応大学)

早稲田卒 指導教授は酒巻俊雄。

アメリカ法・イギリス法系

主な研究分野は、資金調達・株式関係(広い!)

参照リンク↓

研究者詳細 - 久保田 安彦

 

 久保田先生著作の教材と論文集↓

会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-10(設例10-1)合併決議の瑕疵、合併比率の公正と合併の効力

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-10(設例10-1)の解答例を紹介します。

テーマは、合併決議の瑕疵、合併比率の公正と合併の効力です。

細かい点もありますが、重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

 

Q1

本件合併により、Q社財産がP社に包括承継され、Q社株主にはP社株式が割り当てられる。しかし、749条1項3号括弧書きで、割り当てを受ける株主の中から吸収合併存続会社が除かれているので、P社が保有するQ社株式にはP社株式は割り当てられない。

 

Q2

P社の不適切経理やQ社資産の評価は、合併比率の公正さの評価にとって重要であるにもかかわらず、Aは株主からの質問に質問に対して、議決権行使のために客観的に必要な説明をしたとはいえない。よって、本件株主総会決議は、決議方法の法令違反(314条違反)として、取消事由がある(831条1項1号)。

また、仮に合併比率が不公正であるとすると、特別利害関係人であるP社の賛成により、著しく不当な決議がされたという取消事由もある(831条1項3号)。

 

Q3

平成26年会社法改正で、組織再編の差止制度が創設された(784条の2)。要件は、組織再編の法令または定款違反と株主が不利益を受けるおそれのあることである。

Xは、本件決議に決議取消事由(Q2参照)があると主張して、本件決議の取消の訴えを提起するとともに、決議が取り消されれば本件合併には法令違反(783条1項違反。株主総会決議を欠くこと)があるとして、差止請求をすることができる。

実務的には、決議取消訴訟と差止訴訟の双方を本案として、本件合併の差止の仮処分(民保23条2項)を求めることになる。

 

※略式組織再編の差止(784条の2第2号)と異なり、組織再編の対価の著しい不当性は差止事由とならない。これは、組織再編の効力発生までの間に裁判所が対価の相当性について審理を行うことは困難であるからである。同様の理由で、差止事由である法令違反に善管注意義務・忠実義務の違反は含まれない。もっとも、特別利害人の議決権行使により著しく不当な決議がされたこと(831条1項3号)は、差止事由になると解される。

以上につき、田中亘『会社法(第2版)』654~655頁参照。

 

Q4

吸収合併無効の訴え(828条1項7号)を提起する。効力発生後は決議取消しの訴えは提起できない(吸収説(通説))。決議取消訴訟の係属中に、効力が発生したら、合併無効の訴えに訴えを変更(民訴143条)しなければならない。

※他方、江頭憲治郎『株式会社法(第7版)』373~374頁は、併存説(合併の効力発生後も決議取消しの訴えは存続する)を主張する。遡及効のある救済手段を認めるべきであるからだとされる。

 

合併無効の 訴えの提訴期間は、効力発生から6か月(828条1項7号)であるが、通説は、決議取消の訴えにおける決議後3か月の提訴期間要件(831条1項)の趣旨を、合併無効の訴えにも及ぼす。その結果、何もせずに決議後3か月が経過すると、決議取消事由のあることを理由とする合併無効は主張できないことになる(他に合併無効原因が認められなければ請求棄却となる)。

 

もっとも、合併条件の不公正それ自体が合併無効事由になるとする見解(神田説)によれば、決議後3か月の期間制限は及ばず、効力発生日から6カ月以内であれば、合併無効の訴えを提起して、当該無効事由を主張できる。

もっとも、合併条件の不公正それ自体が合併無効事由になるとする見解は、法律関係の安定性を害するというデメリットがあり、合併対価が不公正であることの救済としては株式買取請求や役員等の責任追及もあることから、あまり支持されていない。

東京高判平成2年1月31日会社法判例百選第3版91事件も、合併対価の不公正それ自体は無効事由にならないとする。

 

 

 Q5

 債務超過会社を消滅会社とする合併が可能かという問題について、会社法制定前商法の下では、資本の充実を害することから否定説が通説であった。

会社法の下では、まず、795条2項1号に関連する規定がある。もっとも、この規定は、帳簿上(貸借対照表上)債務超過であっても構わないと規定しているにすぎず、実質的に債務超過であってもよいかは解釈問題となっている。

 

この問題を考えるに当たっては、2点の検討が必要になる。

第1に、債務超過会社を消滅会社とする合併が資本充実を害するのかが問題である。

旧商法下での上記通説は、債務超過会社との合併でも株式が発行されて資本金が増加することを前提としていたと考えられる。しかし、吸収合併をするとき、資本金を増加する必要はなく、資本金の額は一定の範囲で定めればよく、資本金の増加額は0であってもよい(いわゆる無増資合併も認められている)。この場合、資本充実は問題とならない(資本充実とは、資本金という枠を現実の財産で満たさなければならないという原則だから、資本金が増えない場合は現実の財産が増えなくてもよい)。

 

第2に、資本充実は害されなくても、債務超過会社と合併すると、存続会社の財務状態が悪化するので、存続会社の債権者を害するおそれがある点が問題となる。

しかし、合併には債権者異議手続があり、当該手続が適正に行われる限り、債権者との関係で特に問題は生じない。

 

以上のように考えると、実質的な債務超過会社を合併することも(資本金を増やさない限りは)可能であるというべきである。

 

795条2項1号により、帳簿上債務超過であれば、取締役は株主総会においてその旨を説明する義務がある。 また、796条2項但し書によりで、帳簿上債務超であれば、簡易合併は認められない。これは、相手方が債務超過であれば株主は不利益を受けるおそれがあることから株主総会決議を省略すべきでない(取締役会限りの判断での合併を認めるべきでない)と考えられるからである。

このように、帳簿上債務超過の会社との合併は、取締役からの説明を受けたうえで株主総会の特別決議で承認しなければならない。

 

ところが、本問のP社ではそのような手続がとられていないことになる。

株主総会決議の欠缺は合併無効事由になると解されている。

※合併無効の訴えの提訴権者(828条1項7号)は、吸収合併をする会社の株主であった者であるから、Q社株主も含まれるが、自己の会社にかかわる無効事由しか主張できないとする見解(江頭)も有力である。この見解だと、Q社株主はP社側の手続的瑕疵を無効事由として主張することはできないことになる。ここでの問題は、P社側で適正な手続がとられることについてQ社株主が利益を有しているかという問題であり、難しい問題である。

 

Q6

債務超過会社を吸収合併することが存続会社にとってメリットになる場合もある。たとえは、子会社Q社を救済してP社グループ全体の信用を維持したいという場合が考えられる。また、合併によりシナジーが生じ、それが債務超過であることによる不利益を上回る可能性もある。

反対株主は株式買取請求権(797条)を行使することで自衛することもできるので、債務超過会社との合併が存続会社株主を一方的に害するので、許されないということにはならない。

 

 

設例10-1の解説は、以上です。

今回のテーマは重要ですが、細かい論点もあるので、詳しめの教科書と百選解説でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-9(設例9-3)持株会社の株主保護

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-9(設例9-3)の解答例を紹介します。

テーマは、持株会社の株主保護です。

非常に重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

 

(1)子会社で違法行為が行われた場合

Q1

子会社株式はH社の資産であり、子会社の収益・配当はH社の収益となるから、H社取締役は、H社の利益を最大化するために子会社であるP社の管理について善管注意義務を負う。具体的には、Aの責任を追及することがH社によって最大の利益になるのであれば、H社取締役は代表訴訟によりAの責任を追及することが善管注意義務の内容となる。

もっとも、子会社管理は H社取締役の経営判断であり、一定の裁量があるから、善管注意義務違反が認められる場合は、限定的となる。

H社取締役に善管注意義務違反があった場合、H社取締役はH社に対して任務懈怠責任(423条1項)を負い、H社株主は株主代表訴訟を通じて、当該責任を追及できる(847条)。

 

Q2

贈賄を行ったAは法令遵守義務違反により、 P社に対して任務懈怠責任を負う(423条1項)。

  XはP社の株主ではないが、P社の完全親会社であるH社の議決権を1%有する株主であり(公開会社では6カ月の株式保有が必要。847条の3第1項)、H社が保有するP社株式の帳簿価格はH社の総資産の5分の1を超えるから(847条の3第4項)、多重代表訴訟により、AのP社に対する任務懈怠責任を追及することができる(847条の3)。

 

Q3

取締役の任務懈怠責任は総株主の同意で全部免除できる(424条)が、多重代表訴訟の対象となる「特定責任」(847条の3第4項)についてもそれを認めると、多重代表訴訟制度が骨抜きになってしまう。そのため、「特定責任」については、424条などにおける「総株主」は、総株主および最終完全親会社等の株主と読み替えられる(847条の3第10項)。

よって、Xが同意しない限り、Aの責任が全部免除されることはない。

 

Q4

XはQ社取締役に対して多重代表訴訟を提起することはできない。Q社はH社の完全子会社ではないからである。現行法上、多重代表訴訟は完全親子会社関係がある場合に限り認められている(847条の3第1項参照)。

これは、完全子会社でなければ、他の株主がいるため、通常の代表訴訟が提起されることが期待できるため、多重代表訴訟の対象とする必要性は低いと考えられるからである。

通常裁判所の代表訴訟が提起されない場合、AはH社取締役の責任を追及するほかない(Q1参照)。 

 

※Q2・Q4で見たように、現行の多重代表訴訟制度は、➀少数株主権、②完全親子会社要件、③子会社規模要件によって適用範囲が限定されているが、立法論的には異論もある。

 

Q5

できない。847条の3第10項は適用されない。そのため、H社とR社が同意すれば、Aの責任は免除される(424条)。

 

Xは責任免除に同意したH社取締役のH社に対する任務懈怠責任(423条1項)を通常の代表訴訟によって、追及することになる(847条) 。

 

(2)親会社の利益を図る取引

 Q6

P社はH社の完全子会社なので、(Q7と異なり)両社の株主間の利益衝突はない。

完全親子会社間の取引では、株主有限責任の原則により、子会社(P社)の債権者の利益が害されるという問題がある。

子会社の債権者は、法人格否認の法理や、詐害行為取消権、子会社取締役の対第三者責任(429条1項)によって救済を受けることができる。

 

Q7

H社とQ社は親子会社関係にあるが、完全親子会社関係にはないため、Q社には少数株主が存在する。そのため、H社とQ社の間の不公正な取引によって、Q社債権者だけでなく、Q社の少数株主も不利益を被る可能性がある。

※Q社取締役がH社を代理・代表するとき、利益相反取引規制(会社法356条1項2号・365条)により、Q社取締役会の承認が必要となる。もっとも、Q社はH社に支配されており、取締役会の承認を要求することにより、Q社の少数株主が保護される可能性は高くない。

 

子会社の少数株主の保護は会社法上の難問の一つ。

まず、Q社取締役の任務懈怠責任を代表訴訟で追及することは可能である。

問題は親会社や親会社取締役の責任を追及できるかであり、下記のような法律構成がありうる。

➀「親会社としての影響力」とは、究極的には株主権(議決権)行使を通じたものであるといえるため、利益供与規定(会社法120条1項・3項)に基づいてH社に返還請求を行うことが考えられる。847条1項による代表訴訟も可能。

②親会社取締役がQ社取締役の任務懈怠に加担したとして、不法行為(709条・会社350条)を追及する。

③親会社取締役はQ社の事実上の取締役であるとして、対第三者責任(429条1項)を追及する。※株主の間接損害について直接の賠償請求を要求することになるが、支配株主による不当な行為への対抗として、例外的に許されるとする見解が有力である。

 

※なお、差止め(会社法360条(本件では3項の適用がある)) も要件を満たせば利用可能である。

 

(3)子会社株式の譲渡

Q8

 事業の重要な一部の譲渡であるから、株主総会の特別決議が必要(467条1項2号、309条2項11号)。

Xは株主総会に参加して、反対の議決権行使をすることができ、 株式買取請求による救済もある(469条)。

 

Q9

かつては、重要な子会社株式の譲渡については、株主総会決議は要求されず、重要な財産の処分として、取締役会決議が要求されるにすぎなかった(362条4項1号)。

 しかし、事業の重要な一部の譲渡の場合(Q8)とのバランスから、平成26年会社法改正で、株主総会特別決議が要求されるようになった(467条1項2号の2)。

 

Q10

Xが利用できる会社法上の救済手段は次の2点である。

株主総会決議の効力を争う(831条1項等)

・反対株主の株式買取請求をする(469条)

 

 

設例9-3の解説は、以上です。

今回のテーマは重要なので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-9(設例9-2後半)少数株主の締出し(キャッシュ・アウト)

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-9(設例9-2後半)の解答例を紹介します。

テーマは、少数株主の締出し(キャッシュ・アウト)です。

細かい点もありますが重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう!

 

今回は、長いので、前半と後半の2回に分けて解説しています。今回は後半で、特別支配株主による株式等売渡請求によるキャッシュ・アウトを扱います。

 

前半の解説はこちらです↓↓

kaishahou.hatenablog.jp

 

 

(2)特別支配株主の株式等売渡請求による締出し

Q7

 特別支配株主の株式等売渡請求には、全部取得条項付種類株式・株式併合による場合と比べた場合に、株主総会決議が不要である(時間と費用があまりかからない)という利点がある。

 

Q8

Xが利用できる救済手段としては、以下の3つがある。

➀価格決定の申立て(179条の8)

※なお、判例(最決平成29年8月30日民集71巻6号1000頁)によれば、売渡株主等への通知または公告後に売渡株式等を取得した者は売買価格決定の申立てができない(この判例に対しては、反対する有力学説(田中亘「会社法(第2版)」619頁)もある)。

 

②差止請求(179条の7第1項)

→(ア)株式売渡請求が法令に違反する場合、(イ)対象会社が売渡株主への通知もしくは事前開示規制に違反した場合、または(ウ)特別支配株主が定めた売渡対価が著しく不当である場合に、不利益を受けるおそれのある売渡株主は売渡株式等の全部の取得をやめるよう請求することができる。

 

③売渡株式等の全部の取得の無効の訴え(846条の2第1項) 

何が無効原因となるかは解釈問題である(詳しくは、江頭憲治郎「株式会社法(第7版)」283頁注2参照)。

まず、重大な手続違反(取得者の議決権不足、対象会社の取締役会の承認決議の欠缺など)は無効事由になると解される。

対価が著しく不当な場合も、無効原因となるとする見解も有力である(田中亘「会社法(第2版)」620頁参照)。→Q11で扱う問題。

そのほか、正当な事業目的がない場合も無効事由となるかについて議論がある(設例9-2前半の解説(Q3⇒)を参照)。

 

Q9

対価となる金銭の額の相当性、支払いの見込み、取引条件等を考慮して承認するかどうかを判断することにより、売渡株主の利益保護を図るため。

取締役は株主共同の利益を図る義務があると解されている(東京高判平成25年4月17日会社法判例百選第3版54事件、田中亘「会社法(第2版)」621頁参照)。

 

⇒1

 対価となる金銭の額の相当性、支払いの見込み、取引条件等(江頭憲治郎「株式会社法第7版」278頁注2参照)

 

⇒2

 取締役の善管注意義務違反となり、売渡株主に対して対第三者責任(429条1項)や不法行為責任を負いうる。

 

Q10

 取得対価が著しく不当である場合も、差止事由となる(179条の7第1項3号)。

この点は、全部取得取得条項付種類株式の全部取得の場合(171条の3)や株式併合の場合(182条の3)と異なっている(これらは株主総会決議を経る手続であり、特別支配株主の株式等売渡請求と手続が異なる)。

179条の7は、株主総会決議なしに行われる、略式組織再編の差止制度(784条の2第2号、796条の2第2号)と平仄を合わせた規定となっている。

 

Q11

 取得の無効の訴え(846条の2第1項)における無効原因は解釈問題である。

 対価が著しく不当である場合、差止めや価格決定の申立てができることから、無効事由とはならないとする見解もありうるが、不当な対価による取得を一般的に抑止するために無効事由になるとする見解が有力である(田中亘「会社法(第2版)」620頁)。

差止請求は、通常、仮処分手続で争われ、時間的制約のため対価の相当性について十分な審理は期待できないことから、事後的な無効主張の余地も認めるべきである(田中・同頁)。

取得された株式の転々流通もほとんど起こらないため、事後的な無効主張を認めても取引安全はあまり害されないだろう。

 

 

設例9-2後半の解説は、以上です。

今回のテーマは、重要なので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-9(設例9-2前半)少数株主の締出し(キャッシュ・アウト)

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-9(設例9-2)の解答例を紹介します。

テーマは、少数株主の締出し(キャッシュ・アウト)です。

細かい点もありますが、非常に重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

今回は 量が多いので、前半と後半の2回に分けます。

今回は前半で、全部取得条項付種類株式を利用したキャッシュ・アウトを扱います。

 

(1)全部取得条項付種類株式を利用した少数株主の締出し

Q1

完子会社化のメリットとしては、次のものがある。 

・意思決定の迅速化(株主総会開催不要)

・少数株主への配慮の不要

・短期的な業績・株価変動・株主還元の要求に影響を受けずに、長期的な目線での経営が可能になる

・完全子会社になれば上場廃止となるため、上場コスト(開示コスト等)も削減される

 

Q2

クラスa株式1万株にクラスb株式1株が割り当てられることになるため、P社以外のQ社株主はクラスa株式を1万株未満しか保有していない(最多でもXの9000株)ことから、P社以外のQ社株主にはb株式は割り当てられず、端数として処理されることになるから(234条1項2号)。具体的には、Q社が端数の合計に当たる株式を裁判所の許可を得て、買収者(P社)に売却し(234条2項)、売却代金をP社以外のQ社株主に交付することになる。つまり、P社以外のQ社株主は現金を対価として、締め出されることになる(キャッシュアウト)。 

 

平成26年会社法改正後は、株式併合によるキャッシュアウトの規律が整備されたため、そちらが主に用いられるようになっている。

 

Q3

 全部取得条項付種類株式の全部取得については、その効力を争うための特別の訴えの制度はない。そのため、その効力を争う株主は、一連の(設問➀~③の)株主総会決議・種類株主総会決議の効力を争う方法によることになる。平成26年会社法改正で、決議取消しの訴えは、キャッシュアウトされる株主も提起できることが明文で定められた(831条1項)。

 

※この点は株式併合によるキャッシュアウトについても同様。

 

大きく2つの場合がありうる。

➀学説では、正当な事業目的のない締め出し(少数派の排除のみを目的とする場合)は、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議であるとして(831条1項3号)、取消事由になるとする見解がある。とくに、株主が持株比率の維持に関心を有し、株主間に経営参加に関する明示・黙示の約束があることも少なくない閉鎖的会社では、締め出し目的のキャッシュアウトは無効であるとすべきとする有力な見解がある(江頭憲治郎・株式会社法(第7版)160頁注36)。

しかし、東京地判平成22年9月6日判タ1334号117頁は、会社法は公正な価格であれば、少数派株主の締め出しを認めているとして、単に少数派排除目的があっただけでは、831条1項3号に該当しないとしている。

 

②対価が著しく不当である場合、特別利害関係人による議決権行使により著しく不当な決議がされたとして、決議取消事由となるべきである(831条1項3号)。

 

Q4

 取得対価に不満な株主は、裁判所に対し、取得価格決定の申立てをすることができる(172条1項)。申し立てには、事前に全部取得に反対する旨を通知し、株主総会で反対

する必要がある(同項1号)。ただし、議決権を行使できない株主は不要(同2号)。

 

参考)最決形成21年5月29日(レックス・ホールディングス事件決定)

「取得価格決定の制度が、経営者による企業買収(MBO)に伴いその保有株式を強制的に取得されることになる反対株主等の有する経済的価値を補償するものであることにかんがみれば、取得価格は、①MBOが行われなかったならば株主が享受し得る価値と、②MBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分とを、合算して算定すべきものと解することが相当である」

 

Q5

 全部取得が法令または定款に違反する場合に、それによって不利益を受けるおそれのある株主は、全部取得の差止めを請求することができる(171条の3)。よって、前述のように、全部取得の決議が831条1項3号違反である場合、法令違反として、差止めを請求できる。

 

 

Q6

 個別株主通知(振替法154条)は、株主たることを会社に対抗する手段として株主名簿の書換えにかわるものである(同条1項・2項参照)。よって、会社が当該株主の株主資格を争った場合、当該株主は個別株主通知をしていなければ、株主に少数株主権等を行使できない。

会社法172条1項の価格決定申立権は、各株主ごとの個別的な権利行使が予定されていることから、振替法154条1項・147条4項の「少数株主権等」に該当し、会社が株主資格を争った場合、審理終結時までの間に個別株主通知がなされなければならない(最決平成22年12月7日会社法判例百選第3版17事件)。

 

⇒ 

判例(最決平成24年3月28日民集66巻5号2344頁)によれば、Q社株式が上場廃止となり、個別株主通知がなされないまま、取扱機関による取り扱いが廃止された場合であっても、個別株主通知がなければ会社に株主資格を対抗することができないという結論は変わらない。

すなわち、

「上記の理(最決平成22年12月7日会社法判例百選第3版17事件)は,振替株式について株式買取請求を受けた株式会社が同請求をした者が株主であることを争った時点で既に当該株式について振替機関の取扱いが廃止されていた場合であっても,異ならない。なぜならば,上記の場合であっても,同株式会社において個別株主通知以外の方法により同請求の権利行使要件の充足性を判断することは困難であるといえる一方,このように解しても,株式買取請求をする株主は,当該株式が上場廃止となって振替機関の取扱いが廃止されることを予測することができ,速やかに個別株主通知の申出をすれば足りることなどからすれば,同株主に過度の負担を課すことにはならないからである」と判示されている(最決平成24年3月28日民集66巻5号2344頁)。

 

設例9-2前半の解説は、以上です。

今回のテーマは超重要なので、詳しめの教科書・判例百選でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-9(設例9-1)持株会社を利用した企業グループの形成

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-9(設例9-1)の解答例を紹介します。

テーマは、持株会社を利用した企業グループの形成です。

細かい点もありますが、重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

 

(1)抜け殻方式

Q1

持株会社会社法上に定義はなく、独占禁止法上に定義がある。

持株会社とは、一般に他の会社を支配することを主たる目的とした会社であるが、独占禁止法9条4項1号では、総資産における子会社株式の取得価格の比重が50%を超える会社として、形式的に定義されている。

事業活動を一切行わず、専ら子会社の支配だけを行う持株会社純粋持株会社)と自ら事業を行っている持株会社事業持株会社)とが存在する。

本問で念頭に置けれているのは、純粋持株会社である。

 

※Q2以降の前提

P社がS社に全ての事業を移転してしまえば、P社自身は抜け殻のような形で持株会社となる。事業移転の方法として、大きく分けて、①事業譲渡、②会社分割の2つの方法がある

➀は、P社が対価としてS社株式を受け取る場合、現物出資となる。P社が金銭を対価として受け取る場合には、財産引受け(S社設立を条件として事業を譲渡する場合)や事後設立(467条1項5号(設立直後の大きな買い物))になりうる。

 

Q2

 

事業全部の譲渡なので、P社の株主総会特別決議が必要(467条1項1号、309条2項11号)。この規定は現物出資の場合にも類推適用される(実質的にP社株主が受ける影響に違いはないので)。

なお、S社はP社の完全子会社なので、事業全部を譲り受ける場合も、株主総会の特別決議(467条1項3号)が不要となる(468条1項)。

 

⇒1

P社株主の保護は、株主総会特別決議(467条1項1号、309条2項11号)と反対株主の株式買取請求権(469条)で保護される。

 

⇒2

現物出資だと検査役調査が必要(33条・207条)。対価が株式でない場合の事業譲渡では、原則、検査役調査は不要だが財産引受けの場合は検査役調査が必要となる(33条)。

もっとも、事後設立の場合は、検査役調査は不要である。

 

⇒3

対価が何であれ、事業譲渡は、包括承継ではないから、個別的移転手続が必要で、債務を免責的に移転するには、不利益を受ける可能性のある債権者の個別の同意が必要。

そのため、事業譲渡は、手続的に煩雑となる。

 

Q3

会社分割には、新設分割と吸収分割があるが、ここでは新設分割が用られると考えられる(下記⇒参照)。

新設分割に必要な手続は、➀株主総会の特別決議(804条1項(803条1項2号も参照)、309条2項12号)②反対株主の株式買取請求(806)③債権者異議手続(810条1項2号)が必要。

 

新設分割の方が好ましい。

吸収分割は、既存の会社に財産を移転する手続なので、一旦S社を完全子会社として設立しておいてから、吸収分割することになるが、これは二度手間になる。他方、新設分割の方法をとると、S社の設立と事業の移転を同時に行うことができる。本問では、既存の会社に事業を移転させるものではないので、新設分割のほうがよい。

 

 

Q4

いずれも株主総会の特別決議が必要で、反対株主の株式買取請求権がある点は同じ。

違いは、➀会社分割では、検査役調査が一切不要であること。および②会社分割は一般承継の制度なので、個別の財産移転手続が不要であること(個別の同意なく、免責的な債務の移転が可能。その代わり債権者異議手続がある)。この2つが会社分割の利点である。

 

(2)持株会社の新設

※Q5以降の前提

P社の親会社たる持株会社(H社)を新設するには、➀株式移転、②株式交換、③H社設立してからH社がP社に対して公開買い付けを行うこと(Q6参照)が考えられる。

 

 Q5

株式交換と株式移転の対比は、吸収分割と新設分割の対比とパラレルである。

すなわち、株式移転(2条22号)は、その手続内で、H社の設立を行うものである。H社が新設され、P社株主が持つP社株式をH社がすべて取得し、P社株主にはH社株式が対価として交付されるという法律効果が一挙に生じるのが、株式移転である。

他方、株式交換では、すでにH社が存在している(設立されている)必要がある。H社の設立と株式交換(P社株主の有するP社株式とH社株式を交換する)を別々に行う必要があり、二度手間となる。

よって、本問では、株式移転の方法を採るほうがよい。

 

Q6

公開買付では、買い付けに応じない株主がいる場合に、完全親会社を作れない(その後締め出し(スクイーズアウト)の手続を行う必要がある)。

また、対価を金銭とすると、巨額の資金が必要になる。そして、対価をH社株式とした場合、現物出資になるので、原則として、検査役調査が必要になる(207)。

結局、少なくとも、対価をH社株式とする組織再編では、公開買付ではなく、株式移転を利用するのが一般に好ましい。

 

(4)持株会社の定款の事業目的

Q7

定款の事業目的は、株主の出資の使途の範囲を示すことで、株主がさらされるリスクの範囲を限定することに意味がある。

※定款の目的の範囲外の事業が行われた場合、株主は予想外のリスクにさらされることになる。

 

Q8

上記のような、事業目的記載の趣旨からして、事業目的の記載は、明確・客観的でなければならない。明確・具体的でないと株主の危険を限定することにならないからである。

会社法制定前は、商法19条で商号専用権の制度(同一商号で同一市町村で同一の営業については登記できないという制度)があったため、実務上、細分化・明確化が強く要求されていたが、会社法では、同制度は廃止され、登記との関係では、抽象的・包括的な事業目的でもよいと解されている。

しかし、上記の事業目的記載の趣旨からすれば、包括的・抽象的な記載は許されず、事業内容が何かを客観的・正確に確定できる程度には、明確・具体的な記載であることが要求されるというべきである。

 

Q9

 一般的には、親会社は子会社の事業目的を定款に記載しなければならないと解されている。子会社の業績が悪くなれば、親会社の配当収益は減るし、子会社株式の価値が下がれば、親会社の財産が減少することになるので、親会社の株主がさらされるリスクには子会社の事業リスクも含まれる。したがって、親会社株主がさらされる危険の範囲を限定するには、親会社が行う事業だけではなく、子会社が行う事業も親会社の定款の目的の範囲内である必要がある。

 

Q10

親会社が純粋持株会社の場合、親会社株主保護の観点から、一般の親子会社の場合よりも、一層子会社の事業が持株会社(親会社)の事業目的として定款に記載されていなければならないというべきである。

なぜなら、親会社自らも事業を行っていれば、その事業は定款に目的として記載されるであろうから、親会社株主の出資が危険にさらされる範囲はその限度で限定されるが、純粋持株会社では、子会社の事業が定款に記載されていないと、親会社株主がさらされる危険の範囲は無限定になってしまうから。

 

⇒1

(a)案では、持株会社の株主が自己の出資がどのような事業に使われるかが全く分からないので(危険の範囲が何ら限定されないので)、事業目的の記載として不十分である。 

 

⇒2

(b)案が一番丁寧であるが、(c)案でも、持株会社の株主にとって、危険の範囲が限定されているので、 いずれも適法である。なお、(b)案だと、持株会社会社が自ら当該事業を行おうとする場合、定款変更が必要となる。その点で、(c)案の方が柔軟性がある。

 

本問のように、将来的にレストラン事業とホテル事業を行いたい場合、持株会社の定款変更(466条)が必要で、これらの事業を行っている会社を買収するときも、持株会社の定款を変更しなければならない。

 

 

設例9-1の解説は、以上です。

今回のテーマは重要ですが、細かい論点もあるので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-8(設例8-4)定款の定めまたは株主間契約による会社の閉鎖性の維持

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-8(設例8-4)の解答例を紹介します。

テーマは、定款の定めまたは株主間契約による会社の閉鎖性の維持です。

細かい点もありますが、重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

 

(1)取締役・代表取締役の派遣

Q1

 取締役選任についての種類株式(108条1項9号)の制度を利用して、P社・Q社の有する株式をそれぞれa株式・b株式として、取締役を2名ずつa株式・b株式の種類株主総会で選任すると定款に定めればよい。

 

Q2

 取締役会のない会社なら、349条3項にもとづき代表取締役を選定できる。同項は➀定款代表取締役定款の定めによる取締役の互選、③株主総会決議によって、と規定しているところ、本問(1)の定めは➀または②のどちらにも読める。

 

Q3

 取締役会設置会社では、362条2項3号で代表取締役の選定は取締役会決議によるものと定められている。そして、349条3項括弧書きで、取締役会設置会社には同項が適用されないとしている。

取締役会の代表取締役選定権限を奪えるかどうかについては、議論があり、取締役会の監督権限としてこれを重視する立場から否定する見解も有力であるが、株主による定款自治をこの場面でも認めてよいとする見解もある。

 

※この問題に関連して、最判平成29年2月21日民集71巻2号195頁は、非公開会社において、取締役会決議のほか、株主総会決議によっても代表取締役を選任できるとする定款規定を有効とした(取締役会の選定解職権(362条2項3号)は否定されないので、取締役会の監督権限の実効性は失われないことを理由とする)。

 この判例の射程(公開会社にも及ぶか、取締役会の代表取締役選定解職権限をはく奪する定款規定も有効か)は定かではない。

 

Q4

株主間契約であれば、Q1の種類株式やQ2の定款の定めを利用しなくても、問題文(1)の方針を実現できる。

具体的には、P社・Q社間の契約で、それぞれが取締役を2名ずつ選任し、代表取締役を1名選定する旨の議決権拘束契約を結ぶことになる。 

※議決権拘束契約の効力については、設例8-1(2)Q3の解説を参照↓↓

kaishahou.hatenablog.jp

 

 

(2)株式が事実上譲渡されることの阻止

※(2)で問題となっているのは、譲渡制限を付けた場合、無承認の譲渡は、会社との関係では無効だが、当事者間では有効であり、譲渡人が譲受人から指図を受けて議決権行使をする可能性があるところ、これを防ぐことができるかという問題である。

 

Q5

会社にとって好ましくない者が、株主の議決権行使に事実上影響を与えることは、譲渡の当事者間以外でも起こりうることであるが、会社法上そのような事態を阻止する手段はない。

譲渡制限制度は誰が株主名簿上の株主として権利を行使することができるかを会社がコントロールできる制度でしかない。その背後でその者に誰かが指図をしてもそれを阻止する手段はない。

 

Q6

上記問題の発生を一定程度予防するために考えられる手段としては、Q社はP社が同意しなければ R社株式を譲渡できないとすること(いわゆる同意条項を設けること)が考えれれる。

このような同意条項は定款では設けることができないと考えられている。なぜなら、定款で設けることができる譲渡制限の類型は法定されており(会社の承認が要求され、承認がないときでも会社や指定買取人に譲渡することはできるというもの)、それ以外の譲渡制限を定款で定めることは許されないと解されるからである。

もっとも、株主間契約で同意条項を定めることは、(公序良俗に反しない限り)契約自由の原則のもと、適法となる。もっとも、会社が同意を与える形であれば、定款による譲渡制限制度の脱法といえ、無効の疑いが強い。

本問で想定される同意条項は、他方株主の同意がなければ譲渡できないというタイプのものであり、有効と考えてよい。

 

※このほか、先買権条項というものも考えられる。これは、Q社が株式を処分する場合は、P社に事前に通知する義務があり、P社が先買権を有する(P社が買取を希望すればば、P社に売らなければならない)という条項である。

 

Q7

株主間契約に違反して、Q社がR社株式をP社の同意なく譲渡したときも、譲渡自体は有効である。なぜなら、株主間契約は債権契約に過ぎず、これに違反した譲渡も有効である(Sが悪意であっても同じ)からである。

株主間契約違反には、違約金で対処するほかない。これが定款で定めた場合との違い。定款の譲渡制限であれば、定款の定めに違反して承認なくされた譲渡は会社に対する関係では無効である。

 

(3)合弁事業の相手方が他社に買収される場合の措置

Q8

ここではQ社が株式を譲渡するのを阻止しようとしているのではなく、株式を保有し続けるのを阻止しようとしているのであり、定款による譲渡制限の仕組みでは対処できない。

※合併の場合なら、174条の売渡請求制度が使える。

 

Q9

 108条1項6号の取得条項付種類株式を利用する。取得事由としては、Q社が他の者の支配下に置かれたときなどとしておけばよい。

ただ、取得条項付種類株式による取得には、分配可能額による規制がかかる(170条5項)。そのため、R社に十分な財源がなければ、取得できない。これを回避する方法としては、取得の対価を株式とすればよい(株式が対価のとき財源規制はかからない(会社財産の流出がないので))。取得の対価として、無議決権株式をQ社に交付すれば設問のニーズ(R社がT社の影響を受けることを避けること)を満たしつつ、財源規制もかからない。なお、非公開会社なら115条の規制もかからない。

 

Q10

Q社がR社株式を持ち続ける場合なので、同意条項や先買権条項では 対処できない。本問のニーズに対処するには、一定の事由が生じたら、P社がQ社からR社株式を買い取ることができるという売渡強制条項を定める必要がある(Q社は意思にかかわらず売渡を強制される)。

ここでは、売買価格の決定が重要になる。一般に、価格決定の評価人の選定をどうするか、評価人の評価が最終的なものになるのか(争えるよちがあるものなのか)が契約で定められる。

 

(4)合弁事業解消の際の株式買取価格の決定方法 

Q11

 一般に、第三者である格付機関にR社の株式価値を評価してもらってそれを買取価格として決定することが考えられる。しかし、P・Qが納得しない可能性もある。

P・Qいずれも納得できる方法の一つとして、ロシアンルーレット条項がある。これは、

 P・Qのいずれか一方が一定の価格を提示して、相手方はその価格で自分の株式を買い取ってもらうか、相手の株式を買い取るかを選択することができるという内容の条項である。これにより、合理的な価格の設定が担保されると考えられる。

 

設例8-4の解説は、以上です。

今回のテーマは重要ですが、細かい論点もあるので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-8(設例8-3)決議要件に関する定款の定め

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-8(設例8-3)の解答例を紹介します。

テーマは、決議要件に関する定款の定めです。

細かい点もありますが重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

 

Q1

普通決議・特別決議・特殊の決議のいずれについても、定款による定款による決議要件の加重が明文で認められている(309条1項2項3項)。

 

Q2

いくら加重してよいとしても、総株主の同意が必要であるとの定めはできないと解されている。

理由①:多数決原則の否定であり、株主総会の存在意義が失われる。

理由②:あらゆる決議事項についてそうすると、必ず決議しなければならない事項で決議不成立となるおそれがある。

 よって、(1)のあらゆる決議事項について総株主の同意を要求する定款規定は無効であると解されている(多数説)。

 

Q3

選任決議においては、仮に決議が成立しなくても困らない。なぜなら、346条で欠員がでたら、それまでの取締役が引き続き取締役としての権利義務を有することになるので、決議が成立しなくても困らない。よって、定款は有効であると考えてよい。

 

解任についても、決議が成立しなければ、代替手段として取締役の解任の訴え(854条)があるので、問題ない。

 よって、取締役の選解任については、総株主の同意を求める定款規定は認めてよい。

 

Q4

 

一般に決議要件の加重はできるので、3分の2に決議要件を加重する定款の定めは適法・有効であると考えてよい。しかし、本問は、持株比率が6:4の合弁会社の事例で、3分の2以上の多数が必要ということは、総株主の同意が必要であるのと事実上同じになる(P・Q両方が賛成しないと決議が成立しない)。 

 

Q5

 (1)の定め方(Q2)との関係をどのように解するかは難しい問題である。2通りの考え方がある。

 

(A)Q2の場合と同様に、このような定款の定めは違法・無効といわなければならない。

 

(B)ただ持株比率は変動する。現在はたまたまこのような持株比率になっているので、事実上総株主の同意となっているだけで、将来解消される可能性もあることから、(3)のような定款の定めは、それ自体で多数決原則の否定であるとか、株主総会の存在意義を否定するものであるとまで言うことはできないだろう。よって、(3)の定款規定は違法・無効とまでは言えない。

 

 

設例8-3の解説は、以上です。

今回のテーマも、詳しめの教科書等でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-8(設例8-2後半)譲渡制限株式の譲渡承認手続に関する定款の定め

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-8(設例8-2後半)の解答例を紹介します。

テーマは、譲渡制限株式の譲渡承認手続に関する定款の定めです。

細かい点もありますが重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

今回は、長いので、前半と後半の2回に分けて解説しています。今回は後半です。

 

前半の解説はこちら↓↓

kaishahou.hatenablog.jp

 

ケース(3)について

Q8

 (Q5と同様に)139条1項の決定機関は株主総会のままなので、139条1項但し書きの「別段の定め」はどのような内容のものまで認められるかという解釈問題を回避することができるという効用がある。

 

Q9

 属人的定め(109条2項)としてならば適法。

 

株式の種類として定めること(複数議決権株式とする)ことはみとめられない。308条1項本文参照(明文がなければ例外は認められない)。 

 

ケース(4)について

Q10

 140条5項本文で指定は株主総会決議によらないといけない。もっとも、140条5項但書で別段の定めが認められる。これは、指定買取人の指定を株主総会以外の機関が決めることができるとするものだが、定款で指定買取人を直接定めることができるかが本問では問題となる。

これについては可能だと考えられる。指定買取人を定款で直接定めても、投下資本の回収が妨げられるなどの弊害・問題はないので、認めてもよいと考えられる。

もっとも、本問のような定め方は、株主平等の原則に反しないかが問題となりうる→Q11へ。

 

Q11

一般論として、特定の株主(たとえば従業員株主)が 株式を譲渡するときだけ承認が必要とするのは、株主平等原則に反し、そのような定款規定は無効である。

本問の場合は、いずれの株主についても譲渡承認が必要で、指定買取人のみ異なることになるが、本問のようにP・Q2名しか株主がいない会社で本ケースのような指定買取人の決定をおこなうことは実質的に不平等であるとはいえない。形式的には同じ扱いではないが、実質的に平等原則に反するとはいえないだろう。

 

ケース(5)について

Q12

ケース(4)では、指定買取人に買取りの資金がないとき142条2項の 供託ができず、供託を証する書面の交付ができず、145条3項・施行規則26条2号により、承認が擬制される。買取りの資金がないと、承認が擬制され、譲渡制限を設けた意味がなくなる。

ケース(5)は、指定買取人を指定できる者を定めておくものなので、PやQに買取りの資金がない場合でも、別に買取人を指定できる。新しい合弁先を見つけてくることができれば、好ましくない者への株式譲渡を阻止できる。これが、(5)の定めの効用である。

 

Q13

 (Q4と同様に)140条5項但書が指定買取人の指定についても別段の定めができるとしているが、まったく自由なのかは問題である。上位の機関を決定機関とするものであければならないとする見解(江頭説)からは、特定の株主を指定買取人の決定者とするケース(5)の定め違法・無効となる。

もっとも、合弁会社である特殊性を考慮すれば、このような定め方がダメだという実質的理由はないと考えられる。このような解釈問題を回避しようと思えば、ケース(2)・(3)でみたように、指定買取人の決定機関自体は株主総会としたままで、一方が議決権を行使できないとするか、一方が複数の議決権を持つとする旨を定款で定めることが考えられる。

 

ケース(6)について

Q14

 売買価格については、144条で協議とそれが整わないときの裁判所の決定という手続が予定されている。

(a)は、具体的な金額を定めるものである。価格を固定してしまうと、株価は変動するので、譲渡の時点で株式の真の価値とかけ離れた金額になっている可能性がある。このように、実質的投下資本回収に疑いが生ずるので(譲渡時の真の株式価値と合理的な関係のある金額で譲渡できるのでなければ実質的な投下資本の回収とは言えない)、このよう定款規定は無効の疑いが強い。

(b)は、定款で売買価格の算定方法を定めるというもの。このような定款規定の有効性については、2通りの考え方がある。

(ア)144条の規定を厳格に解して、裁判所に価格を決定させることが投下資本の回収を保障するために不可欠であるから、(b)の定め方は違法・無効。

(イ)定款で定めた算定方法が合理的なら、実質的に投下資本回収の妨げにはならない。よって、合理的な算定方法なら認められてよい。この考え方からは、(b)の一株当たりの純資産とする算定方法が合理的かが問題となる。

1つの考え方としては、一株当たりの純資産は141条2項・142条2項により会社または指定買取人が供託する額となっている(細かい計算式は施行規則25条参照)ので、会社法はこの額を一応合理的な額と考えているといえる。よって、(b)の定め方は無効とまではいえないだろう。

 

これに対して、無形資産(ブランド・ビジネスモデルなど)からもたらされる収益力からみた企業価値が純資産を上回ることは少なくなく、一株当たりの純資産を株式価値とみなすことには問題があるとする考え方(株式価値はDCF法によって算定すべきであるとする考え方)も十分ありうる。

 

設例8-2後半の解説は、以上です。

今回のテーマは、重要なので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-8(設例8-2前半)譲渡制限株式の譲渡承認手続に関する定款の定め

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-8(設例8-2)の解答例を紹介します。

テーマは、譲渡制限株式の譲渡承認手続に関する定款の定めです。

重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

設例8-2は大変長いので、前半と後半にわけて解答例を掲載します。今回は前半です。 

 

Q1

 R社は非公開会社なので、取締役会がない。そのため、139条1項に基づき、株主総会が譲渡の承認を行う機関となる。

 

Q2

50対50だと、 譲渡を承認する決議も承認しない決議もできなくなる(いわゆるデッドロックの状態となる)。つまり、139条1項の決定ができないので、139条2項の通知もできないことになる。そして、139条2項の通知が出いない場合、145条2項により承認が擬制される(これは会社が通知しないことで譲渡承認請求者が不利益を受けないようにするための規定である)。

そうすると、本件の場合、せっかく譲渡制限の定めを設けていても、常に譲渡が擬制されてしまい、譲渡制限を設けた意味がなくなってしまう。

したがって、合弁会社の一方の株主が合弁事業の解消を希望したときに解消できるように、工夫する必要がある。→ケース(1)~(6)はそのような工夫の例である。

 

ケース(1)について

Q3

 こうした定めがなければ、Q2でみたようにデッドロックの状態に陥る。(1)の定めは、承認機関を株主総会以外にして、デッドロックを回避するという意味を持つ。

 

Q4

 139条1項但し書きの「別段の定め」の解釈の問題に帰着する。つぎの2通りの考え方がある。

 (A)「別段の定め」に文言上の制約はないので、(1)のような定めをしても問題ない。とくに、合弁会社の特殊性を考慮すれば、そのような定めには合理性がある。

 

(B)取締役会よりも下位の機関を決定機関と定めることはできないとの見解もある(江頭)。この見解は、株主を決めるのは、株主自身であるべきだとの原則のもと、取締役会設置会社では、逐一株主総会の招集をするのは大変なので、例外的に取締役会によって決めることができるようにしていると解する(416条4項1号参照)。

※この見解に対しては、そもそも譲渡制限を付けないこともできるのだから、緩やかな譲渡制限を付けることも許されるべきであり、会社の機関(株主も含む)であれば、譲渡承認の決定を委ねても問題ないのではないかとの批判もある。

 

いずれにせよ、(B)説のように、(1)の定めを無効とする見解もあるので、実務上は安全性をとって、(2)の定めも検討する必要がある。

 

ケース(2)について

Q5

(2)の定めは、 決定機関は株主総会のままで、議決権を行使することができる者に制限を付けたものである。よって、139条1項但し書きの「別段の定め」で決定権者を下位の機関としてよいのかというQ4で出てきた問題を回避できるという効用がある。

 

Q6

(2)の定めは、ある事項につき、特定の株主について議決権を行使することができないとする規定であり、属人的定め(109条2項)に該当する。

非公開会社では、このような属人的定めが可能である(109条2項)。

 

Q7

可能である。108条1項3号の議決権制限種類株式としてa株式とb株式を作り、それぞれ「当該株式についての会社法139条1項の決議について議決権を行使できない」と定めればよい。非公開会社では、115条の制限がないので、全部の株式を議決権制限株式としてよい。

 

 ※Q6でみた属人的定めは特定の株主の属性として議決権制限を付けている。Q7でみた議決権制限株式は、株式の属性として議決権制限を付けている。株式の内容に組み込んでいるので、種類株式となる。本問ではR社は非公開会社であり、いずれの方法も使える。

 

設例8-2前半の解説は、以上です。

今回のテーマは、重要ですが、細かい論点もあるので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-8(設例8-1)定款自治・株主間契約と類似する諸制度との比較

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-8(設例8-1)の解答例を紹介します。

テーマは、定款自治・株主間契約と類似する諸制度との比較です。

細かい点もありますが、重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

 

(1)取締役の選任に関する種類株式

Q1

非公開会社(108条1項但し書き)だけが、108条1項9号の種類株式を発行するすることができる。 

 

R社が非公開会社になるには、  定款変更(466)をして、全株式に譲渡制限を設ければよい(107条1項1号)。このときの株主総会の決議は、特殊の決議(309条3項1号)となる。本問では、P社とQ社の両社が賛成すればよい。

 

Q2

非公開会社になった(Q1⇒参照)後で、定款変更(466)をして108条2項9号イの定めとして、「P社の保有する株式をa株式、Q社の保有する株式をb株式にして、a株式は取締役を1名、b株式は取締役を4名選任するものとする」旨を定款に定めればよい。

 

466条により多数決で、均一だった株式をa株式とb株式に分けることができるかという問題がある。会社法はこのような株式の内容の変更(均一の株式の分化)に関する規定を置いていない(種類株式の内容の変更については、定款変更手続に加え、不利益を受ける種類株主の種類株主総会決議を要求している(322条1項1号ロ))。

均一の株式の分化は、多数決で決めると不利な内容の株式を少数派に押し付けることができてしまうため、問題である。株主平等原則の観点から、このような定款変更は通常の定款変更手続では足りず、総株主の同意が必要であると考えるべきである。

 

(2)議決権拘束契約

Q3

議決権拘束契約は、当事者間(本問ではP社・Q者間)の債権契約として有効であるにとどまり、これに違反した議決権行使が行われても、契約上の責任(損害賠償責任など)が生じるにすぎず、決議の効力には影響がないと考えられている。

 

株主全員が契約当事者である場合、契約違反の議決権行使によって成立した決議は、定款違反の決議と同視できるとする見解がある(江頭説)。831条1項1号または2号(※1:4の割合で取締役を選ぶという決議内容が定款で定められているところ、それに対する違反と評価できる)により、決議取消事由となる。

 

※この見解に立つと、(2)のケースでも(1)に近い形が実現できそう。

しかし、Q社側は、取締役を送り込んでも、P社が多数派であることから、取締役をすぐに解任されてしまうかもしれないし、欠員が出た場合にどうするかという問題もある。取締役選任にかかる種類株式なら、解任や欠員の場合も法律で手当てがされている。種類株式ではなく、議決権拘束契約を利用するうのであれば、解任や欠員の場合の対処についても契約で定めておくことが紛争予防の観点からは望ましい。

 

(3)議決権制限株式

Q4

108条1項3号は、「議決権を行使することができる事項」としており、議題レベルでの議決権制限を想定している。本問は、これを議案レベルでの議決権制限にも利用できるかという問題である。

公開会社では、115条違反となるため不可能だが、非公開会社では、これを認めても弊害はないので、認めてよいと考えられる(参考文献に挙げられた江頭編「改正会社法セミナー株式編」352頁参照)。

ただ、このような議決権制限株式を定めた場合、議案まで定款で書いておかなければならない。このような定款の定めが許されるのなら、A~Eまでの候補者について両者の希望通りに可決・選任される。なお、株主提案で異なる候補者が出てきても、P・Qともに議決権がないので、否決される。

 

Q5

 公開会社では115条の数量制限があるので、これを回避するために、全株式に譲渡制限を付ける定款変更行えばよい(107条1項1号、466条・309条3項1号(株主総会の特殊の決議))。

 

Q6

非公開会社になれば(手続はQ5参照)、属人的定めを利用することも可能である(109条2項)。属人的定めは、309条4項の特殊の決議で採用可能。種類株式とは異なり、全員の同意は不要なので、こちらの方が容易ではあるが、多数派が少数派に不利益を強いるような場合は、株主平等原則(の趣旨)違反として無効になる(東京地立川支部判決平成25・9・25金判1518号54頁参照)。田中亘・会社法第2版90-91頁参照

 

(4)拒否権付種類株式

Q7

Q社に不都合な候補者が出てくれば、Q社の種類株主総会で否決し続ける ことができ、そうすれば、いずれ好ましい候補者が出てくるかもしれないが、不確実かつ迂遠であり、R社の運営に支障をきたしかねない。よって、拒否権付種類株式を利用することは賢明な方法とはいえない。

 

 

設例8-1の解説は、以上です。

今回のテーマは重要ですが、細かい論点もあるので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-7(設例7-2後半)指名委員会等・監査等委員会

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-7(設例7-2後半)の解答例を紹介します。

テーマは、指名委員会等・監査等委員会です。

細かい点もありますが重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

今回は、長いので、前半と後半の2回に分けて解説しています。今回は後半です。

 

前半の解説はこちら↓↓

kaishahou.hatenablog.jp

 

 

(5)監査等委員会の監査等委員である取締役以外の取締役の人事・報酬への関与

Q8

監査等委員会設置会社の取締役は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役を区別したうえで、株主総会決議によって選任される(329条1項2項)。

 

監査等委員である取締役の選任議案を株主総会に提出するには、監査等委員会の同意を得なければならない(344条の2第1項)。また、監査等委員会は、監査等委員である取締役の選任について議案提案権を有する(同2項)。これらは監査等委員である取締役の独立性確保のためである。 

 

解任についても、株主総会決議(339条1項)によるが、監査等委員である取締役を解任するには特別決議が必要である(309条2項7号)。

 

監査等委員である取締役は、株主総会において監査等委員である取締役の選任・解任・辞任について意見を述べることができる(342条の2第1項~3項)。※これは、各監査役等が個人としての意見を述べるものである。(Q10の意見陳述権と対照的)

 

Q9

 監査等委員である取締役の報酬は、定款または株主総会において、それ以外の取締役の報酬と区別して定めれられる(361条1項2項)。

監査等委員である取締役の報酬の総額を定めた場合には、監査等委員である取締役の協議により、その配分を定める(同条3項)。取締役会への配分の一任は、監査等委員の独立性を害するため、認められない。

監査等委員である取締役は、株主総会で、監査等委員である取締役の報酬等について意見陳述ができる(同条5項)。※これもQ10でみる意見陳述と異なり、監査等委員である取締役個人の意見陳述である。

 

Q10

監査等委員である取締役は、株主総会で、監査等委員でない取締役の選任・解任・辞任について、監査等委員会の意見を述べることができる(342条の2第4項)。同様に、監査等委員である取締役は、株主総会で、監査等委員でない取締役の報酬について、監査等委員会の意見を述べることができる(361条6項)。

これは、個人の意見を述べるものではなく、監査等委員会が決定した意見を述べるものである(399条の2第3項3号)。

 

※このような、人事・報酬に関する意見陳述権があることから、監査「等」委員という名称になっている。平成26年会社法改正の際の立案段階では、監査監督委員という名称だったが、「監督」と呼べるほど強力な権限ではないとして内閣法制局が反対したため、監査等委員という名称になった。

 

(6)監査委員会・監査等委員会と監査役会

Q11

監査役会設置会社では、常勤の監査役が必要(390条3項)。

これに対し、指名委員会等設置会社では、常勤の監査委員は不要であり、

監査等委員会設置会社でも 常勤の監査等委員を定める必要はない(いずれも390条3項のような規定がない)。

これは、後述のように、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社では、内部統制システムの整備が義務付けられており(416条1項1号ロホ・2項、399条の13第1項1号ロハ・2項)、監査等委員は、自らの会社の業務や財産をちょうさするというよりは、むしろ内部統制システムが適切に構築・運用されているかを監視し、必要に応じて、内部統制部門に指示を与える形で監査することが主として想定されているからである。

 

Q12

監査役会設置会社監査役は、 独任制の機関であり、各人が監査役の権限(調査権限・報告請求権限)を行使できる。390条2項但書で監査役会決議をもっても、監査役の権限行使を妨げることはできないとされている。

これに対して、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社では、監査委員会や監査等委員会が選定する監査委員や監査等委員が、上記の監査役の権限に対応する権限を行使できる(405条1項、399条の3第1項)。選定された監査委員や監査等委員は、監査委員会・監査等委員会の決議に従わないといけない(405条4項、399条の3第4項)。

それ以外の 個々の監査委員や監査等委員は上記権限を行使できない(監査役と違って独任制ではない)。

監査役と監査委員・監査等委員とでは、想定されている監査のやり方が異なっている。

監査役は、自身で会社の業務や財産の状況を調査する(いわゆる実査を行う)。これに対して、監査委員や監査等委員は、実査は基本的には行わず、内部統制システムを利用して組織的に監査を行うことが想定されている。監査委員や監査等委員は、内部統制システムが適切に構築・運用されているかも監視する。

 

(7)内部統制システム

Q13

 監査役設置会社では、大会社のみに内部統制システム整備についての決定義務がある(362条5項・348条4項)。

指名委員会等設置会社 ・監査等委員会設置会社では、規模の大小を問わず、内部統制システムを整備しなければならない(416条1項1号ロホ・2項、399条の13第1項1号ロハ・2項)。これらの会社では、内部統制システムを利用した組織的監査が想定されているからである(Q12の解説参照)。

 

Q14

 内部統制システムに関する事項を決定するのは、取締役会であり、これは取締役会の専決事項であるから、委任はできない(416条1項1号ロホ2項・3項、399条の13第1項1号ロハ・2項)。

 ※田中亘・会社法第2版315頁の図表4-18参照

 

Q15

 監査委員会・監査等委員会は、内部統制システムを利用して監査を行う。どれだけ実効性のある監査ができるかは、内部統制システムの出来具合による。もし、構築されている内部統制システムに不備等があると監査員会・監査等委員会が判断すれば、取締役会に報告して(監査委員や監査等委員は全員取締役であるので容易に報告できる)、内部統制システムを改善してもらう必要がある。

 このような形で、監査委員・監査等委員は内部統制システムの運用に関与することが想定されている。

 

 

設例7-2後半の解説は、以上です。

今回のテーマは、重要なので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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会社法事例演習教材の解答例Ⅱ-7(設例7-2前半)指名委員会等・監査等委員会

こんにちは、コポローです。

今回は、会社法事例演習教材(第3版)Ⅱ-7(設例7-2)の解答例を紹介します。

テーマは、指名委員会等・監査等委員会です。

重要なテーマなので、しっかり勉強しましょう! 

設例7-2は大変長いので、前半と後半にわけて解答例を掲載します。今回は前半です。 

 

(1)指名委員会の権限

Q1

指名委員会等設置会社において、 取締役選任議案の決定は指名委員会に専属する(404条1項)。したがって、指名委員会が決定した取締役の候補者について、取締役会が対立候補を立てることはできない。

416条4項5号括弧書きもこのことを前提としている(執行役に委任できるという趣旨ではなく、もともと取締役に権限がないから委任することができないことを意味する。)。

 

このように、指名委員会は単に取締役会に候補者を推薦するわけではなく、取締役選任議案を決定している。本来、指名委員会は取締役会の中にある委員会にすぎず、取締役会で委員会の決定を覆すことができるはずだが、会社法はそうしていない(これはアメリカと違う点である)。

わが国では、委員会の権限が強化されている。アメリカでは、社外取締役が取締役会の過半数を占めているが、日本の指名委員会等設置会社では、そのような実務は期待しにくい。そのような中、委員会の決定を取締役会で覆せるとすると、社外取締役を各委員会で過半数入れた意味(400条3項)が乏しくなる。そこで、委員会の権限を強化している。つまり、数少ない社外取締役を最大限活用するために委員会の権限を強化したわけである。

 

Q2

委員会設置会社であっても、株主提案は否定されていない。株主は対立候補を立てる議案提案をできる。その方法としては、修正動議として、株主総会当日に提案する方法(304条。一議決権を持つ株主でも可能)と、持株要件を満たす株主が事前に提案して招集通知に議案を掲載してもらう方法(305)がある。

このように、指名委員会等設置会社でも、株主提案については制限等はない。

 

(2)取締役会の権限

Q3

執行役の選任は取締役会の専決事項(416条4項10号)とされ、執行役はもちろんのこと、一部の取締役に委任することもできないと解されている。

実質的な理由① :取締役会の執行役に対する監督権限は、取締役会の解任権が裏付けとなっている(416条3項・1項2号)。よって、取締役会が執行役の選解任権を手放すことは許されない。

実質的な理由②:指名委員会の役割は、執行役を監督する取締役会の構成員たる取締役を(執行役からの)独立性の高い者にすることであり、執行役を選解任することではない。

 

(3)報酬委員会の権限と取締役の報酬

Q4

指名委員会等設置会社では、報酬委員会が執行役等の報酬を決定する(404条3項)。

執行役等とは、取締役および執行役のことである(404条2項1号)。 

 

報酬委員会が執行役の報酬を決定することとされている理由は、報酬の決定は監督手段のひとつであり、執行役からの独立性が高い報酬員会で決めることが望ましいからである。報酬員会の過半数社外取締役である。

 

報酬委員会が取締役の報酬を決定することとされている理由は、取締役の執行役からの独立性を確保するためである。

(※監査役会設置会社のように株主総会を取締役の報酬の決定機関とすると、株主総会における会社提出議案を決めるのは、執行役であり、報酬の点で、監督機関としての取締役の独立性が弱められてしまう。)

指名委員会等設置会社では、指名委員会が人事面での取締役の独立性を確保し、報酬委員会が報酬面での取締役の独立性を確保している。そうした独立性の高い取締役から構成された取締役会で執行役を実効的に監督すること(モニタリングモデル)が指名委員会等設置会社の制度趣旨である。

 

※なお、報酬員会で取締役報酬を決定させると、報酬委員も取締役であるので、お手盛りの危険が生じるが、指名委員会等設置会社における取締役は業務執行機関ではなく監督機関なので、取締役として受ける報酬はそれほど高額にはならない(業務執行を行っていないので、不当に高い価格を決めにくい)ため、ここでのお手盛りの危険は深刻なものではないと考えられている。

 

Q5

指名委員会等設置会社では、株主総会で取締役の報酬の総額を決め具体的配分を取締役会に一任するという定款の定めを置くことは、認められていない。404条3項の文言は、「361条1項にかかわらず」としているため、株主総会で取締役の報酬を決定できない趣旨の規定であると読める。

 実質的理由としても、それをみとめると、株主総会に提出する議案は執行役が作成するため、取締役の報酬面での独立性が弱められ、指名委員会等設置会社の制度趣旨に反する。

 

 

(4)役員へのストックオプションの付与

Q6

 ストックオプションとは、インセンティブ報酬の趣旨で役員らに付与される新株予約権である。その手続規制として、①報酬規制と②新株予約権発行規制の両方が適用される。

 

①指名委員会等設置会社の場合、まず報酬規制として報酬委員会の決定が必要になる(409条3項1号4号または5号ロ)

 

新株予約権の発行規制は、第三者割り当ての形になる(238条)。新株予約権の発効は、公開会社では、有利発行でない限り(報酬委員会が報酬として決定した分の新株予約権の発行は有利発行にならない。実質的に労務が対価となっている。令和元年改正会社法236条3項・4項も参照)、取締役会の権限とでき(240条1項)、その権限は執行役に委任できる(416条4項で新株予約権の発効は委任禁止事項とされていない)。

 

Q7

 409条3項但書きにより、会計参与にはストックオプションを付与できない。

 

※指名委員会等設置会社以外の場合でも、監査役や会計参与にストックオプションを付与できるか議論がある(387条1項・379条1項の解釈問題として)。

(A)否定説の考え方:

監査役や会計参与は、取締役と異なり、会社の業績を向上させることを目的に職務を行うわけではない(効率性・妥当性の観点から職務を行わない)。監査役は、取締役の職務の適法性を監査し、会計参与は取締役と共同して計算書類を作成するのがその職務である。これらは、株価を上げることに目がくらんではならない職務であり、これらの者にストックオプションを付与することは合理的でない(監査等の適正性を損なわせるおそれがある)ため、会社法上許されない。404条3項但し書きはこのことを、確認する規定(指名委員会等設置会社には監査役がいないので、会計参与のみに言及している)である。

 

 (B)肯定説の考え方:

監査役や会計参与の職務も、最終的には会社の信用の維持や業績の向上に寄与する面があり、ストックオプションの付与を禁止するほどのことはない。よって、監査役・会計参与についても、361条1項の取締役の報酬規定を類推適用することができると解する。

この見解からは、404条3項但し書きは立法論的には疑問があることになる。

 

 

設例7-2前半の解説は、以上です。

今回のテーマは、重要ですが、細かい論点もあるので、詳しめの教科書でしっかり復習しましょう!!また、ストックオプションに関する法規制は、令和元年会社法改正で重要な改正がなされています。この機会にしっかり確認しましょう。

それでは、また次回!

 

 

 

 

 

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