こんにちは、コポローです。
今日は会社法事例演習教材(第4版)Ⅰ-2(設例2-1)の後半(Q6以降)の解答例を紹介します。
テーマは、 株主総会決議取消しの効果です。
会社法を勉強する上での重要テーマですので、頑張って学習しましょう!
前半(Q5以前)の解答例です。
kaishahou.hatenablog.jp
Q6
剰余金配当決議(決議②)が取り消された場合、決議は遡及的に無効となる(839条)ため、配当は法律上原因のない給付(454条違反の配当)として、不当利得になる。
計算書類承認決議(決議➀)が取り消された場合、計算書類はさかのぼって未確定となる(後掲昭和58年最判)。
この場合、446条において、株主総会で確定された最終事業年度の計算書類に基づき計算される剰余金も(計算不能のため)不確定となり、剰余金の配当は無効となると解するのが素直な解釈である。
すなわち、この場合も、決議②が取り消された場合と同様に、配当は不当利得になる。
⇒1(ややマニアックな問題)
違いは生じない。
本件は、分配可能額規制違反があったわけではなく、そもそも剰余金配当決議や計算書類承認決議がない場合であり、決議がない以上、(分配可能額規制違反があった際の配当の効力についての議論にかかわらず)剰余金配当は無効である。
⇒2
令和3年の計算書類承認決議が取り消されると、決議はさかのぼって無効になり(839条)、たとえ計算書類の内容に違法な点がなくても、計算書類は、未確定となるから、それを前提とする次期以降の計算書類の記載内容も不確定なものになる(最判昭和58年6月7日民集37巻5号517頁会社法判例百選第4版37事件・第3版39事件)。
この判決は、令和4年の計算書類承認決議・剰余金配当決議の効力がどうなるかは明確に示していないが、理論的に考えると、令和4年の計算書類承認決議・剰余金配当決議は無効になると考えられる。
したがって、令和4年度の剰余金配当も無効である。
⇒3
決議➀・②およびそれ以後の剰余金配当決議を再決議すればよい。
なお、株主校正が変わっていたとしても、原則として、問題ない。不利な影響を受ける株主が承認しているのであるから。
例外的に、特別利害関係株主による著しく不当な決議(831条1項3号)に該当する余地があるが、前の決議の瑕疵が単なる手続的瑕疵であれば、著しく不当ともえないであろう。
⇒4
決議➀・②が取り消されたら、初めにさかのぼって効力が生じるという停止条件付きの計算書類の承認決議・剰余金配当決議を行っておく。そうすれば、決議➀・②にかかる取消訴訟は、訴えの利益が亡くなり、却下される(最判平成4年10月29日民集46巻7号2580頁参照)。
Q7
決議③は遡及的に無効となるので、Aは取締役ではなかったことになり、ひいては代表取締役でもなかったことになる。
取引の効果を帰属させるには、354条の表見代表取締役の規定の類推適用(Aは取締役でないので「類推」となる)や、908条2項の不実登記の効力の規定(911条3項14号で代表取締役のの氏名・住所が登記事項になっている)、「事実上の取締役」の法理によるほかない。
⇒
839条の反対解釈に反するので、難しい。
Q8
支配人は取締役会により選任されなければならない(362条4項3号)ところ、決議③の取消しにより、遡及的にA・B・Cは取締役でなかった ことになり(839条)、支配人選任に係る取締役会は不存在と評価されるため、Kは支配人ではないことになる。
Kが支配人として行った行為の効果は、会社法13条(Kが使用人でなかれば類推適用)・908条2項類推適用などの表見法理によってのみ会社に帰属する。
Q9
具体的な報酬請求権は、定款の定めまたは株主総会決議がなければ発生しない(最判平成15年2月21日金判1180号29頁会社法判例百選第4版A21事件・第3版A17事件)。
そのため、取締役が受け取った報酬は不当利得に名r可能性があるが、取締役としての職務を行っている以上、その職務に見合うべき相当な額が支払われていたのであれば会社に損失はなく、取締役は不当利得返還義務を負わないというべき(過大な報酬が支払われていた場合は、当該過大部分について不当利得返還義務が生じる)。
Q10
取締役選任決議が取り消された場合、取締役として職務を行っていたものは、「事実上の取締役」として、その間の責任を負う(423条1項類推適用)と解する見解が有力。
また、429条1項については、Aらが取締役であるとの登記があれば(Aらはそのことを承諾しており、不実登記の出現に加功しているといえる)、908条2項の類推適用(責任を負うのが登記義務者(会社)であはなく、Aらであるため「類推」)により、Aらは自らが取締役でないことを第三者に主張することができないので、429条1項に基づく責任を負う(判例・通説)
Q11
退職慰労金も職務執行の対価であり、361条1項の「報酬等」に該当するため、株主総会決議または定款の定めがなければ、支給できない(361条1項)。
よって、決議④が取り消された以上、会社は不当利得返還請求をすることができる。
Q9(報酬一般)との違いとして、退職慰労金は通常の報酬とは別に特別の功績があったものに株主総会決議等をへて支給されるものであるから、これを支給しないとしても、会社が不当利得を得たということにはならない。
内規があっても、内規は決議があった場合に退職慰労金の内容を決める基準にすぎないため、定款・株主総会決議と同視することはできない。
Q12
裁量棄却の要件は、①招集手続または決議の方法が法令または定款に違反すること、②違反の事実が重大でないこと、③決議に影響を及ぼさないことである(831条2項。これらの要件を満たすときに、総合考慮のもとで裁量棄却の有無が判断される)。
本件では、招集通知の欠缺は➀をみたす(299条1項)。
②は評価が分かれ得る。有力な見解は、招集通知の欠缺は「重大でない」とはいえないと解する。株主から総会参加の機会を奪う点で重大であるため、原則として、裁量棄却の対象とならないと解すべきである。
ごくわずかな株主への招集通知漏れで、会社に故意がなかった場合などは、例外的に「重大でない」と評価することもありうる。
③については、P社は株主数20名の小規模な会社である点で決議に影響があったという余地はあるが、ほとんどの株主が強固に賛成していたという場合には、決議に影響がないと考えられる。
設例2-1の解説は以上です。
複数の分野にかかわる問題でしたので、教科書・判例百選等でしっかり復習してください。
それではまた次回!
設例2-2の解説はこちらです
kaishahou.hatenablog.jp
