司法試験・予備試験・ロー入試に向けた会社法

司法試験上位合格者が会社法についてわかりやすく解説します

令和元年会社法改正のポイント③取締役の報酬

こんにちは、コポローです。

令和元年会社法改正では、細かいテクニカルな改正が多く、受験生や法学部生にとっては、とっつきにくい内容となっています。本連載では、論述試験に出そうな重要項目にしぼって、改正法のポイントを解説します。

今回(第3回)の内容は、取締役の報酬です。重要な事項には下線を引ております。

※新しい六法などで条文を確認しながら、読み進めてください。

 

1  報酬等の決定方針

下記アまたはイの会社の取締役会は、定款または株主総会決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められていない場合には、その内容についての決定に関する方針を定めなければならない(改正361条7項)。

監査役会設置会社(公開会社でありかつ大会社であるものに限る)であって、その発行する株式について有価証券報告書内閣総理大臣に提出しなければならないもの

イ 監査等委員会設置会社

 

制度趣旨:取締役会に報酬等の決定方針を決定させることによって、報酬の側面から経営陣に対する監督機能を発揮させること

 

※アとイの会社は社外取締役を選任しなければならない会社であり(アについて改正 327 条の2。なお、イについては改正 399 条の 13 第 5 項 7 号により報酬等の決定方針は取締役会の専決事項)、取締役会による経営陣の監督が強く期待されるため、取締役会による報酬等の決定方針の決定が義務づけられることになった。なお、同じく社外取締役の設置が義務づけられている指名委員会等設置会社では、改正前会社法のもとで報酬等の決定方針を報酬委員会が決定することになっている(会社法409 条1項)。

 

※「報酬等の決定方針」の対象となる取締役から監査等委員会の監査等委員である取締役を除くのは、監査等委員である取締役の報酬は、監査役報酬に準じ、監査等委員である取締役の報酬と区別して定められ、またその定めの範囲内で監査等委員である取締役の協議によって個人別の報酬を定めるためである(会社法361条2項3項)。

 

※取締役会が取締役の個人別報酬の決定方針を定めている場合において、それに反した個人別報酬が決定された場合、あるいは、当該方針を決定しなければならない株式会社が方針を決定しないで取締役の個人別報酬を決定した場合、個人別の報酬の決定は違法であり、無効と解される。

 

2  報酬決議における理由説明

・改正前会社法の下では、株主総会において取締役の報酬についての定めを設けるまたは改定する場合に、取締役が株主総会でその事項が相当である旨を説明する必要があるのは、報酬等のうち額が確定していないものについてその具体的算定方法を定める場合と金銭以外の報酬を定める場合に限られていた。

・しかし、確定額である金銭報酬であっても、その額を示されただけでは、そのような報酬等を定めることが必要かつ合理的であるかを株主が適切に判断することはできない。

→そこで、改正法は、株主総会において、不確定額報酬や非金銭報酬に関する議案のみならず、確定額報酬に関する議案の内容を定め、又は改定する場合にも、その報酬等議案を「相当とする理由」の説明を求めることとした(改正法361条4項)。

 

3 株式報酬等についての明文化

(1)背景

改正前会社法の下で、金銭報酬のみ定めて、金銭報酬請求権(債権)を募集株式・募集新株予約権の払込みにあてる(現物出資方式、相殺方式)という実務がある。これは、実質的に株式・新株予約権が報酬となっているのに、形式は金銭報酬である。そこで、改正会社法は、報酬の実態にあわせるための規制、つまり実質的に株式・新株予約権を報酬とする場合についての明文の定めを設けた。

 

(2) 株式を報酬とする場合

・当該会社の株式を報酬とする場合は、定款または株主総会決議により、次の事項を定める。

(α)報酬等のうち当該株式会社の募集株式については、当該株式の数の上限その他法務省令で定める事項(会社法 361 条 1 項 3 号)

(β)報酬等のうち、当該株式会社の募集株式と引き換えにする払い込みに充てるための金銭については、取締役が引き受ける当該募集株式の数の上限その他法務省令で定める事項(会社法 361 条 1 項 5 号イ)

→(α)は株式そのものを報酬とする場合、(β)は金銭報酬を定めながらそれを募集株式の払込みにあてる(現物出資方式)場合であり、いずれも実質的には株式報酬であるとして、定款または株主総会決議を要するものとする。

 

※指名委員会等設置会社についても同様の規定が置かれた(会社法 409 条 3 項 3 号 5 号イ、改正施行規則案 111 条 1 号 2 号、111 条の 3 第 1 項)。

 

1)株式報酬としての募集株式の無償発行

・改正前会社法の下で、募集新株予約権については無償発行が認められるが、募集株式の発行等においては、必ず払込金額(または現物出資財産の価額)を定めなければならない(会社法 199 条 1 項 2 号 3 号)。

改正会社法は、株式報酬を正面から認めることに関連して、上場会社について、募集株式の無償発行を許容する。すなわち、上場会社においては、新会社法 361 条 1 項 3 号に掲げる事項についての定めに従い当該株式会社の募集株式を引き受ける者の募集をするときは、募集株式の払込金額または現物出資に関する事項定めることを要しないものとする(新会社法 202 条の 2 第 1 項前段)。

 

・この場合において、当該株式会社は、募集株式について、取締役の報酬等として株式の発行もしくは自己株式の処分をするものであり、募集株式と引換えにする出資の履行を要しない旨、および募集株式を割り当てる日(割当日)を定めなければならない(会社法 202条の 2 第 1 項後段。これらの事項は 199 条 2 項の「募集事項」に含まれる。新会社法 202 条の 2 第 2 項)。

・この場合の募集株式は、定款または株主総会の決議による新会社法 361 条 1項 3 号に掲げる事項についての定めに係る取締役(取締役であった者も含む)以外の者は、申込みをすることができない(会社法 205 条 3 項)。

・報酬として当該募集株式を割り当てられた(引き受けた)取締役は割当日にその募集株式の株主となる(会社法 209 条 4 項)。この場合の株式報酬としての募集株式の割当てについても、会社法 206 条の 2(支配株主の異動を伴う募集株式の発行等)は適用される(会社法 205 条 4 項による読み替えがある)。

※指名委員会等設置会社についても同様の規定が設けられている(会社法 202 条の 2 第 1項、205 条 3 項)。

この株式の無償発行の特則は、上場会社についてのみ適用される。非上場会社では、株式の市場価格が存在しないため公正な価値を算定することが容易ではなく、経営陣によりこの特則が濫用的に(払込みをせずに交付される株式には議決権があることから、不当な経営者支配を助長するように)利用されるおそれがあるからである。

 

2)募集株式の無償発行と有利発行規制との関係

立案担当者によると、新会社法 202 条の 2 の特則が適用される募集株式の発行については、有利発行規制(199 条 3 項)や不公正な払込金額による引受人等の責任(会社法 212 条)は適用されない(明文の除外規定はないが、払込金額が存在しないので(202 条の 2 第 1 項前段による 199 条 1 項 2 号 4 号の事項を定めない旨)、払込金額の存在を前提とする規定は適用されない)と説明されている。

→その理由として、①取締役は株式会社に対して職務執行により便益を提供することとなるため、金銭の払込みを要しないこととすることが特に有利な条件に該当することは想定しがたいこと、および、②募集株式を取締役の報酬とする場合には、株主総会の決議によって募集株式の上限等を定めなければならないから(新会社法 361 条 1 項 3 号)、当該募集株式の発行による既存株式の希釈化の限度について株主の意思を確認していること、が挙げられている。

・なお、上場会社であってもなくても、取締役報酬としての募集株式の発行が経営者の支配権維持を主要目的とする場合は、会社法 210 条 2 号の差止事由となる。

 

3)報酬等として定めた募集株式の数の上限を超過した募集株式の発行

新会社法 361 条 1 項 3 号に定めた募集株式の上限を超えて募集株式が取締役に発行された場合、超過分の募集株式の発行の効力をどのように考えるかという解釈問題が提起されている。

→この問題について、会社法 361 条 1 項の定款の定めまたは株主総会決議なしに報酬が支給されても報酬としては無効であり取締役の不当利得となると解されてきたこと、また報酬等として交付される株式が譲渡制限付きの場合であれば(専用口座で管理されるため)第三者が損害を被るおそれは小さいことなどから、当該募集株式の発行は無効原因がある、とする見解が有力である(伊藤靖史)。

 

4)株式報酬の範囲 (※中級者から上級者向け)

会社法 361 条 1 項 3 号および 5 号イは、株式報酬を「当該株式会社の募集株式」と規定している。そのため、たとえば、当該株式会社の親会社・子会社の募集株式を取締役等の報酬とする場合は、新会社法 361 条の株式報酬には該当しない。当該株式会社以外の会社の募集株式については、希薄化や持株比率の低下の問題は生じないため、これについて会社法 361 条 1 項 3 号や 5 号イの規制を設ける必要はない。新株予約権についても、会社法 361 条 1 項 4 号・5 号ロは、「当該株式会社の募集新株予約権」と規定しているので、他の株式会社の募集新株予約権は含まれない。

 

(4新株予約権を報酬とする場合

・当該会社の新株予約権を報酬とする場合は、定款または株主総会決議により、次の事項を定める。

(α)報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項(新会社法 361 条 1 項 4 号)

(β)報酬等のうち、当該株式会社の募集新株予約権と引き換えにする払い込みに充てるための金銭については、取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項(新会社法 361 条 1 項 5 号イ)

→(α)は新株予約権そのものを報酬とする場合、(β)は金銭報酬を定めながらそれを募集新株予約権の払込みにあてる(相殺方式)場合(なお、募集新株予約権の払込みに充てることを予定して取締役に金銭が支払われる場合にも、βに該当しよう)であり、いずれも実質的には新株予約権が報酬であるとして、定款または株主総会決議を要するものとする。

 

1)新株予約権の行使価格の特則(0 ストックオプション

・改正前会社法の下で、募集新株予約権の発行については、払込みを要しないものとすることができるが(会社法 238 条 1 項 2 号)、新株予約権の行使については必ず出資をすることが必要である(会社法 236 条 1 項 2 号 3 号)。そこで、実務では、行使価格を 1 円とする 1円ストックオプションが交付されることがある。

・改正会社法は、株式報酬と同じ考え方から、上場会社において新株予約権を取締役の報酬とする場合に、行使に際して払い込み・給付を要しないものとすることを認めた。すなわち、上場会社においては、新会社法 361 条 1 項 4 号または 5 号ロに掲げる事項についての定めに従い当該株式会社の新株予約権を発行するときは、新株予約権の行使に関して出資される財産の価額またはその算定方法(会社法 236 条 1 項 2 号)を当該新株予約権の内容とすることを要しない(会社法 236 条 3 項前段)。この場合において、当該株式会社は、次に掲げる事項を当該新株予約権の内容としなければならない。

ア 取締役の報酬等としてまたは取締役の報酬等をもってする払込みと引き換えに当該新株予約権を発行するものであり、当該新株予約権の行使に際してする出資(払込み・給付)を要しない旨

イ 定款または株主総会の決議による改正会社法 361 条 1 項 4 号または 5 号ロに掲げる事項についての定めに係る取締役(取締役であった者を含む。)以外の者は、当該新株予約権を行使することができない旨(新会社法 236 条 3 項。ア・イは登記事項である。新会社法 911 条 3 項 12 号ハ)

 

※指名委員会等設置会社についても同様の規定が設けられている(会社法 236 条 4 項)。

 

この規制は、株式報酬と異なり、発行手続の特則ではなく、会社法 236 条の新株予約権の内容として定めるものである。そのため、新会社法 361 条 1 項 4 号(新株予約権そのものを報酬とする場合)のほか、同条 1 項 5 号ロ(相殺方式)についても適用される。また、有利発行規制(会社法238条3項)の適用も排除されない。

 

4  事業報告における開示の充実(※中級者から上級者向け)

・改正会社法本体には規定されていないが、法務省令において、公開会社の事業報告の内容のうち、取締役の報酬等に関する事項を充実させることが予定されている。具体的には、以下の事項が開示の対象として提示されている。

○株式会社の会社役員に関する事項(改正施行規則案 121 条 1 項)

・取締役・会計参与・監査役・執行役ごとの報酬等の総額を掲げることとする場合において、その全部または一部が業績連動報酬等または非金銭報酬等であるときは、取締役、会計参与、監査役または執行役ごとに、業績連動報酬等の総額、非金銭報酬等の総額およびそれら以外の報酬等の総額と員数

・会社役員ごとに報酬等を掲げる場合において、その全部または一部が業績連動報酬等または非金銭報酬等であるときは、会社役員ごとに、業績連動報酬等の額、非金銭報酬等の額およびそれら以外の報酬等の額

(以上 4 号の改正)

 

・会社役員の報酬等の全部または一部が業績連動報酬等である場合は次に掲げる事項

イ 当該業績連動報酬等の額又は数の算定の基礎として選定した業績指標の内容及び当該業績指標を選定した理由

ロ 当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法

ハ 当該業績連動報酬等の額又は数の算定に用いたイの業績指標の数値

(以上 5 号の 2 新設)

 

・会社役員の報酬等の全部又は一部が非金銭報酬等である場合には、当該非金銭報酬等の内容(5 号の 3 新設)

⇒報酬がインセンティブとして機能しているかどうかを株主が把握することができるよ

うにするために、報酬の内訳を開示するものとした。

 

・会社役員の報酬等に係る定款又は株主総会の決議による定めについての次に掲げる事項

  イ 当該定めを設けた日又は当該株主総会の決議の日

  ロ 当該定めの内容の概要

  ハ 当該定めに係る会社役員の員数

 (5 号の 4 新設)

⇒これにより過去の株主総会決議の内容等が開示されることになる。役員報酬の最高限

度額が長期にわたり(場合によっては株主総会議事録備置期間(会社法 318 条 2 項)を超えて)放置されることを認めると、お手盛り防止の機能さえ失われるという問題に対処するものである。

 

取締役等の個人別の報酬等の決定方針

会社法 361 条 7 項の方針・409 条 1 項の方針を定めているときは、事業報告において、以下の事項を開示する。

・当該方針の決定の方法

・当該方針の内容の概要

・当該事業年度に係る取締役(指名委員会等設置会社にあっては執行役等)の個人別の 報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会)が判断した理由 

 (6 号新設)

 

・個人別の報酬決定の再一任(6 号の 3 新設)

再一任に関する事業報告における開示は、個人別の報酬の決定方針を定めなければならない会社(新会社法 361 条 7 項各号)でなくとも、公開会社であれば、事業報告に記載しなければならない。

 

今回の解説記事は以上です。今回は特に細かい点が多いので、下記の参考書籍や最新の教科書でも復習しておくことをお勧めします。

次回は、補償契約およびD&O保険に関する改正の内容を紹介します。

それではまた!

 

会社法改正に関するおすすめの書籍はこちらです(本記事でも一部参考にしました)↓ 

 


 

 

kaishahou.hatenablog.jp