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令和元年会社法改正のポイント④会社補償およびD&O保険

こんにちは、コポローです。

令和元年会社法改正では、細かいテクニカルな改正が多く、受験生や法学部生にとっては、とっつきにくい内容となっています。本連載では、論述試験に出そうな重要項目にしぼって、改正法のポイントを解説します。

今回(第4回)の内容は、会社補償およびD&O保険です。重要な事項には下線を引ております。また、中級者から上級者向けの事項にはその旨を付記しています。

※新しい六法などで条文を確認しながら、読み進めてください。

  

                Ⅰ.会社補償

                1.総説

                (1)会社補償の意義

会社補償とは、役員等の責任を追及する訴えが提起された場合等に、取締役が要した争訟費用や損害賠償金を会社が補償することをいう(430条の2第1項1号・2号参照)

・メリット:①優秀な人材の確保、②職務執行の萎縮の防止、③適切な防御活動による会社の損害拡大の阻止

                (2)法規定創設の理由

民法650条により可能な補償の範囲やその手続についての解釈が不明確

・会社補償は、直接取引(356条1項2号)として利益相反取引規制(423条3項・428条を含む)を受ける可能性があるが、その意義に鑑みるとここまで厳格な規制を適用することは相当でない

・会社補償により生ずることが懸念される弊害(役員等の職務の適正性が損なわれるおそれ、役員の責任や罰金等を定める規定の趣旨が損なわれるおそれ、会社と取締役との間の構造的利益相反)に対処する

 

                2.手続に関する規律

取締役会決議(取締役会非設置会社では株主総会決議)で補償契約の内容を決定しなければならない(430条の2第1項)

利益相反取引に係る規定(356条1項・365条2項・423条3項・428条1項)および民法108条の適用排除(430条の2第6項・7項)

・補償の実行段階では取締役会決議は不要だが、場合によっては、重要な業務執行の決定(362条4項)として取締役会決議が必要になりうる。

・補償契約の当事者となる取締役は、補償契約の内容の決定および補償契約に基づく補償の実行にあたり、会社法369条2項の「特別の利害関係」を有し、議決に加わることができないと考えられる。

・補償を実行した場合、補償を実行した取締役および補償を受けた取締役は、遅滞なく取締役会に重要な事実を報告報告しなければならない(430条の2第4項)

 

                3.防御費用の補償の範囲

・会社自身による責任追及の場合にも防御費用の補償は認められる(契約で除外可能)

・補償できる金額は「通常要する費用の額」に限られる(430条の2第効1号)

当該役員等が自己若しくは第三者の不正な利益を図り、又は会社に損害を加える目的(図利加害目的)で職務を執行したことを会社が知った場合に会社は返還請求権を有する(430条の2第3項)。

 

趣旨

①役員等が不当な目的をもって職務を執行していたような悪質な場合であっても、会社の費用で防御費用が賄われることとなると、役員等の職務の適正性を害することが懸念される。

②防御費用の補償は訴訟等の進行過程において必要となる可能性が高いにもかかわらず、その補償が必要となる時点においては、事案の全容が明らかでないことも多く、会社において本要件の充足にかかる判断をすることが通常難しいと考えられることから、事後的な返還請求という形式を採用した。

 

・図利加害目的があった場合も補償は有効で、特別の法定責任として上記返還義務が生じると解される。なお、会社は図利害目的を立証して権利濫用の抗弁を行うことで、補償を拒むことは可能であろう。

 

株主代表訴訟の対象となるか?(最判平21年3月10民集63巻3号361頁を前提)

会社法上に明文で定められた責任であるため、「取締役の地位に基づく責任」に該当するといえよう。

 

                4.第三者に対する責任の補償の範囲

                (1)会社による求償との関係

・会社に対する責任を補償することはできず、第三者に対する責任のみ補償可能

・第三者に対する責任についても、会社が役員等とともに連帯責任を負う場合において、会社が賠償したときに、会社が役員等に会社法423条1項に基づく損害賠償を請求することができる部分については、補償することができない(430条の2第2項2号)

理由:責任免除制度(424条等)との整合性

 

〇423条1項による損害賠償請求をすることができない部分とはどのようなものか?

・会社が第三者に対して損害賠償金を支払い、役員に対して求償をする場合の根拠は、通常は会社法423条に基づく役員の損害賠償責任であり、会社は、当該役員との間で責任限定契約を締結している場合でない限り、第三者に対して支払った損害賠償金の全額を当該役員に求償することができるのが原則である。

・会社が役員等の行為に基づき第三者に対して責任を負う場合、任務懈怠は常に認められるか(不法行為上の過失は会社に対する任務懈怠を直ちに導くか)?

→理論的には独立しているが、429条1項の場面では「任務懈怠」が緩やかに認められてきたことに照らすと、現状では任務懈怠要件が歯止めになるか疑問が大きい。

・任務懈怠が肯定された場合における責任限定の可能性として、損益相殺、過失相殺、寄与度減責(割合的因果関係)、424条~427条がありうる。

→しかし、損益相殺、過失相殺、寄与度減責が認められるか、認められるとしてどの程度であるかは不明確(後二者については430条と緊張関係にある)であり、424条~426条は実務上ほとんど使われていないため。現実的には責任限定契約(427条)を締結しないと機能しないであろう

 

⇒423条1項による損害賠償請求をすることができない部分とは、主として、責任限定契約により免責される部分のことである。

 

                (2)主観的要件

・役員等がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があった場合には補償不可(430条の2第2項3号)。悪意または重過失がある場合も補償の対象としてしまうと、職務の適正性を害するおそれが高く、他方で、補償の対象としない場合でも、役員の職務の執行が萎縮することはないと考えられるためである。

重過失の内容は、会社法425条から427条までにおける重過失と同様に解される(立案担当者)。会社法429条1項の重過失との異同はよくわからない(429条1項の重過失の意義が不明確なため)が、実際には重なる場合が多く、429条1項の対第三者責任について補償をすることは難しいだろう(そもそも、429条1項については任務懈怠も要件となっており、上述した430条の2第2項2号との関係でも補償は困難である)。

 

                5.開示 (中級者から上級者向け)

〇事業報告において下記の事項の開示が義務付けられた(会社法施行規則121条3号の2、3号の3、3号の4)

ア 当該役員の氏名

イ 当該補償契約の概要(当該補償契約によって当該役員の職務の適正性が損なわれないようにするための措置を講じているときは、その措置の内容を含む)

ウ 当該役員に対して防御費用を補償した会社が、当該事業年度において、職務の執行に関し、当該役員に責任があること又は当該役員が法令[1]に違反したことを知ったときは、その旨  ※氏名・金額は不要

エ 当該事業年度において、会社が当該役員に対して第三者に対する責任にかかる損失を補償したときは、その旨及び補償した金額  ※氏名は不要

 

〇開示規制の趣旨

①補償の適否、金額の相当性、および補償金の返還の要否等を株主が事後的に検証することを可能とするため

②補償の適正性等を担保するため(過度な補償がされることへの歯止め)

   

                Ⅱ.役員等賠償責任保険(D&O保険)

                1.総説

                (1)D&O保険の意義

役員賠償責任保険とは、会社の役員が、責務を怠ったとして会社や株主、取引先などの第三者から損害賠償責任を追及された場合に、賠償金等の費用を補償してもらえる保険である。「D&O保険」とも呼ばれる。「D&O」とは「Directors and Officers」の略で、取締役や執行役、監査役といった会社役員を指す。

・D&O保険のメリット:①優秀な人材の確保、②職務執行の萎縮の防止(適切なインセンティブの付与)

 

                (2)法規定創設の理由

・株式会社がD&O保険契約を締結する際の手続の明確化

・間接取引(356条1項3号)として利益相反取引規制(423条3項を含む)を受ける可能性があるが、D&O保険の意義に鑑みるとここまで厳格な規制を適用することは相当でない

・D&O保険により生ずることが懸念される弊害(役員等の職務の適正性が損なわれるおそれ、D&O保険契約の締結における利益相反)に対処する

 

                2.定義

・株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(法務省令で定めるものを除く)。(430条の3第1項)

法務省令により、いわゆる生産物賠償責任保険(PL保険)、企業総合賠償責任保険(CGL保険)、自動車賠償責任保険、海外旅行保険等に係る保険契約などが除外されることになる(会社法施行規則115条の2)

                3.手続に関する規律

・取締役会決議(取締役会非設置会社では株主総会決議)でD&O保険契約の内容を決定しなければならない(430条の3第1項)

利益相反取引に係る規定(356条1項・365条2項・423条3項)および民法108条の適用排除(430条の3第2項・3項)。「役員等賠償責任保険契約」のほか、法務省令で除外される保険契約についても適用が排除されている。

・被保険者となる取締役は、D&O保険契約の内容を決定する取締役会の決議において、369条2項の「特別の利害関係」を有していると解される。ただし、取締役会決議についてすべての取締役が共通の利害関係を有している場合には、369条2項は適用されないと考えられ、通常は取締役の全員が被保険者となるため、会社法369条2項は適用されないことになろう。

 

                4.開示(中級者から上級者向け)

〇公開会社においては、役員等賠償責任保険契約の下記事項を事業報告により開示しなければならない(施行規則119条2号の2、121条の2)

ア 被保険者の範囲

イ 保険契約の内容の概要(役員等の保険料の負担割合、対象となる保険事故の概要、職務の適正性確保措置の内容を含む)

※保険金額、保険料、支払われた保険金の額は含まない

〇開示規制の趣旨:D&O保険に内在する利益相反およびモラルハザードへの対処

 

 

今回の解説記事は以上です。今回もやや細かい点が多いので、下記の参考書籍や最新の教科書でも復習しておくことをお勧めします。

次回は、社外取締役の活用に関する改正の内容を紹介します。

それではまた!

   

会社法改正に関するおすすめの書籍はこちらです(本記事でも一部参考にしました)↓ 

 


 

 

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