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判例解説・最決平成29年12月19日(会社分割における承継債権者の信義則による保護)

 

こんにちは、コポローです。

今回から「最近の会社法関係の重要判例について、学習者向けに要点を分かりやすく解説する」記事を連載していきます。

最近の予備試験や司法試験では、裁判例を題材(元ネタ)の一部とした出題が散見されます。

そこで、本ブログでは、重要判例解説や商事法務掲載の解説などを参考に、各種試験との関係で重要な裁判例をピックアップし、要点を分かりやすく解説していきたいと思います。

「最近の判例」の基準としては、会社法判例百選第3版に掲載されていない判例を念頭においています。

   

 

第1回となる今回の判例は、最決平成29年12月19日民集71巻10号2592頁(賃借人が会社の吸収分割を理由に違約金債権に係る債務を支払わないと主張することが信義則に反して許されないとされた事例)です。

 

(事案の概要)

Y社とX社は、X社がY社の設計等に基づいて老人ホーム用建物(以下「本件建物」という)を建築し、Y社が有料老人ホーム等として使用する目的で、本件建物をX社から賃借する契約(以下「本件賃貸借契約」という)を締結した。この契約には、Y社が契約当事者を実質的に変更した場合にはX社は本件賃貸借契約を解除できる旨の定め(以下「本件解除条項」という)およびその場合Y社はX社に違約金を支払う旨の定め(以下「本件違約金条項」という)がある。その後、Y社は、資本金100万円を全額出資することによりA社を設立したうえで、A社との間で、老人ホーム事業(以下「本件事業」という)に関する権利義務等をY社がA社に承継させる旨の吸収分割契約(以下「本件吸収分割契約」といい、本件吸収分割契約に基づく吸収分割を「本件吸収分割」という)を締結した。同契約には、Y社は本件事業に関する権利義務について本件吸収分割の後は責任を負わない旨の定めがある。X社は、Y社およびA社に対し、Y社が本件賃貸借契約の契約当事者を実質的に変更したこと等を理由に、本件賃貸借契約を解除し、本件違約金条項に基づく違約金債権(以下「本件違約金債権」という)の一部を被保全債権として、Y社の第三債務者に対する債権につき仮差押命令を申し立てた。

 

(判旨)

 最高裁は、次のように判示して、Xの申立てを認めた。

(ⅰ)本件賃貸借契約においては、X社とY社との間で、本件建物が他の用途に転用することが困難であることおよび本件賃貸借契約が20年継続することを前提にX社が本件建物の建築資金を支出する旨が合意され、X社は、長期にわたってY社に本件建物を賃貸し、その賃料によって本件建物の建築費用を回収することを予定していたと解される。X社が、本件賃貸借契約において、Y社による賃借権の譲渡等を禁止した上で本件解除条項および本件違約金条項を設け、Y社が契約当事者を実質的に変更した場合に、Y社に対して本件違約金債権を請求することができることとしたのは、上記の合意を踏まえて、賃借人の変更による不利益を回避することを意図していたものといえる。Y社も、X社の意図を理解した上で、本件賃貸借契約を締結したものといえる。

(ⅱ)しかるに、Y社は、本件解除条項に定められた事由に該当する本件吸収分割をして、X社の同意のないまま、本件事業に関する権利義務等をA社に承継させた。A社は、本件吸収分割の前の資本金が100万円であり、本件吸収分割によって本件違約金債権の額を大幅に下回る額の資産しかY社から承継していない。仮に、本件吸収分割の後は、A社のみが本件違約金債権に係る債務を負い、Y社は同債務を負わないとすると、本件吸収分割によって、Y社は、業績不振の本件事業をA社に承継させるとともに同債務を免れるという経済的利益を享受する一方で、X社は、支払能力を欠くことが明らかなA社に対してしか本件違約金債権を請求することができないという著しい不利益を受けることになる

(ⅲ)法は、吸収分割会社の債権者を保護するために、債権者の異議の規定を設けている(会社法789条)が、本件違約金債権は、本件吸収分割の効力発生後に、X社が本件解除条項に基づき解除の意思表示をすることによって発生するものであるから、X社は、本件違約金債権を有しているとして、Y社に対し、本件吸収分割について同条1項2号の規定による異議を述べることができたとは解されない

(ⅳ)以上の(ⅰ)~(ⅲ)によれば、Y社がX社に対し、本件吸収分割がされたことを理由に本件違約金債権に係る債務を負わないと主張することは、信義則に反して許されず、X社は、本件吸収分割の後も、Y社に対して同債務の履行を請求することができるというべきである。

 
 

(解説)

本件では、会社分割によって承継される継続的契約の債権者の保護が問題となっている。

こうした債権者は債権者異議手続により保護が図られているが、本件違約金債権は将来債権であることから債権者異議手続の対象とならないとする見解も有力である(江頭など)。この点を措くとしても、現実問題として、X社が本件吸収分割について異議を述べることができたかに関しては疑問もある。最高裁が、上記(ⅲ)においてX社が本件吸収分割について異議を述べることができたとは解されないとするのは、これら両方の観点を含むものと考えられる。

X社はY社が承諾なしに会社分割を行った場合には直ちに違約金が発生する旨の契約条項を定めることで自衛することができたとして信義則による保護を与える必要はないと割り切ることも考えられるが、Y社が意図的にX社による自衛の不備を突いていると考えられる本件では、信義則による救済をX社に与えたことは妥当であるとして、学説の多くも本判例を支持している

判例は一般的かつ抽象的な法理ではなく、本件事案の具体的事実関係を前提とした事例判断を示したものであり、今後の同種の事案においても信義則違反の有無は当該事案の個別的な事情の下で具体的に判断されるべきであるとされる

信義則による保護は、会社分割の法律関係の安定性を損なうおそれがあり、また、会社法759条2項のような財産の価額による責任の限定が存在しないことから、㉗決定の射程は慎重に検討する必要があるとの指摘もある(飯田秀総)。

 

 

 (本判例のおすすめ評釈)

松本展幸・ジュリ 1527号107頁(調査官解説)

飯田秀総・法教 451号139頁 

笠原武朗・リマークス 58号94頁(R3年予備試験考査委員)

  

今回の記事は以上です。

少しでもみなさんの参考になれば幸いです!!

それではまた!!!

 

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