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判例解説・最高裁令和3年7月19日(監査役・会計限定監査役の任務)

こんにちは、コポローです。

本ブログでは、「最近の会社法関係の重要判例について、学習者向けに要点を分かりやすく解説する」記事を連載しています。

最近の予備試験や司法試験では、裁判例を題材(元ネタ)の一部とした出題が散見されます。

そこで、重要判例解説や商事法務掲載の解説などを参考に、各種試験との関係で重要な裁判例をピックアップし、要点を分かりやすく解説していきたいと思います。

「最近の判例」の基準は、今回から、会社法判例百選第4版に掲載されていない新判例となります。

 

なお、会社法判例百選第3版から第4版までの重要判例については下記記事にまとめています。

kaishahou.hatenablog.jp

 

 

今回の判例は、最判令和3年7月19日会計限定監査役は、計算書類及びその附属明細書の監査を行うに当たり、当該計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではないとされた事例)です。

 

(事案の概要)

①X社では、経理担当職員Aが10年近くにわたり同社の銀行預金から金銭を横領していた(以下「本件各横領行為」という)。

②X社は、会計限定監査役であったY(公認会計士・税理士)に対して、在任中の毎年の監査において預金の実在性確認を怠ったとして、会社法423条1項に基づき損害賠償請求をした。

③第1審(千葉地判平成31年2月21日金判1579号29頁)は、Yおよびその補助者がAに銀行預金の残高証明書の原本等の提示を求めることが容易であるにもかかわらず、これを怠り、漫然と残高証明書の写しを実査する方法のみで預金の実在性を監査してきたことから任務懈怠を認め、請求を一部認容した。

④他方、控訴審(東京高判令和元年8月21日金判1579号18頁)は、次のように述べて、Yの任務懈怠を否定した。

「会計限定監査役が……監査を行う場合においては,会計帳簿の信頼性欠如が会計限定監査役に容易に判明可能であったなどの特段の事情のない限り,会社(取締役又はその指示を受けた使用人)作成の会計帳簿(会社法432条1項)の記載内容を信頼して,会社作成の貸借対照表損益計算書その他の計算関係書類等を監査すれば足りる。会計限定監査役は,前記のような特段の事情がないときには,会社作成の会計帳簿に不適正な記載があることを,会計帳簿の裏付資料(証憑)を直接確認するなどして積極的に調査発見すべき義務を負うものではない。」

 

(判旨)

最高裁は、次のように述べて、原判決を破棄差戻しとした。

監査役設置会社(会計限定監査役を置く株式会社を含む。)において,監査役は,計算書類等につき,これに表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめるなどして監査を行い,会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見等を内容とする監査報告を作成しなければならないとされている(会社法436条1項,会社計算規則121条2項,122条1項2号)。この監査は,取締役等から独立した地位にある監査役に担わせることによって,会社の財産及び損益の状況に関する情報を提供する役割を果たす計算書類等につき(会社法437条,440条,442条参照),上記情報が適正に表示されていることを一定の範囲で担保し,その信頼性を高めるために実施されるものと解される。

  そうすると,計算書類等が各事業年度に係る会計帳簿に基づき作成されるものであり(会社計算規則59条3項),会計帳簿は取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものであるとはいえ(会社法432条1項参照),監査役は,会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではない。監査役は,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも,計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため,会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め,又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。そして,会計限定監査役にも,取締役等に対して会計に関する報告を求め,会社の財産の状況等を調査する権限が与えられていること(会社法389条4項,5項)などに照らせば,以上のことは会計限定監査役についても異なるものではない。

  そうすると,会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。

 これと異なる見解に立って,Yはその任務を怠ってはいないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,Yが任務を怠ったと認められるか否かについては,X社における本件口座に係る預金の重要性の程度,その管理状況等の諸事情に照らしてYが適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くして判断する必要があり,また,任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても審理をする必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。」

 

 裁判官草野耕一の補足意見

「私は法廷意見の理由及び結論に賛成であるが,審理を原審に差し戻した趣旨につき思うところを述べておきたい。

  差戻審がYが任務を怠ったか否かを検討するに当たっては,次の点に留意すべきと考える。

 まず,会計限定監査役は,公認会計士又は監査法人であることが会社法上求められていない以上,Yが公認会計士資格を有していたとしても,X社の監査に当たりYにその専門的知見に基づく公認会計士法2条1項に規定する監査を実施すべき義務があったとは解し得ないという点である(会社計算規則121条2項が同法2条1項に規定する監査以外の手続による監査を容認しているのはこの趣旨によるものであろう。)。次に,監査役の職務は法定のものである以上,会社と監査役の間において監査役の責任を加重する旨の特段の合意が認定される場合は格別,そうでない限り,監査役の属性によって監査役の職務内容が変わるものではないという点である。Yの具体的任務を検討するに当たっては,上記の各点を踏まえ,本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる具体的行為(例えば,本件口座がインターネット口座であることに照らせば,Yが本件口座の残高の推移記録を示したインターネット上の映像の閲覧を要求することが考えられる。なお,会計限定監査役にはその要求を行う権限が与えられているように思われる(会社法389条4項2号,同法施行規則226条22号参照)。)を想定し,本件口座の管理状況についてX社から受けていた報告内容等の諸事情に照らして,当該行為を行うことが通常の会計限定監査役に対して合理的に期待できるものか否かを見極めた上で判断すべきであると思われる。

  なお,平成19年5月期の監査の際にYに提供された本件口座の残高証明書は本件従業員によりカラーコピーで偽造されたものであり,平成20年5月期以後の監査の際にYに提供された残高証明書は本件従業員により白黒コピーで偽造された写しであったとの原審認定を前提とすると,平成20年5月期以後の監査の際にYは本件口座の残高証明書の原本等の提示を求めるべきであったといえるか否かについても検討を要すると思われるが,その際には,平成19年5月期の監査の際に提供された残高証明書につき,Yがこれをどのようなものとして認識したか,これと平成20年5月期以後の監査の際に提供された上記写しとの形状・様式・内容の相違の有無・程度,Yの会計管理システムの仕組みや態勢,上記のカラーコピーの残高証明書と同様の形状・様式・内容を備えた残高証明書の作成の難易等を考慮して,上記の提示の求めが本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる行為といえるか否かについて慎重に判断する必要があると思われる。」

 

(解説)

原判決は、監査役が計算書類等の監査を行う際に、特に疑わしい事情のない限り、会計帳簿の記載内容が正確であることを信頼してよいとして、いわゆる信頼の原則・信頼の権利を妥当させました。

 

しかし、最高裁も述べるように、法律の条文では、

監査役は,計算書類等につき,これに表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめるなどして監査を行い,会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見等を内容とする監査報告を作成しなければならないとされている(会社法436条1項,会社計算規則121条2項,122条1項2号)」

とされています。

 

こうした法律の条文と原判決の上記判示は整合的でなく、原判決に対しては強い批判がありました(弥永真生・ジュリ1541号3頁等)。よって、最高裁が原判決を破棄した点は妥当と思われます(弥永真生・ジュリ1563号3頁)。

 

ただ、監査役が具体的にどのような調査をすべきかは、事案ごとに異なるため、難しい問題です(最高裁もさらなる審理が必要であるとして、事件を差し戻しました)。今後の議論の発展が待たれます。

なお、草野裁判官(もともと企業法務に詳しい弁護士)の補足意見は、監査役・会計限定監査役の任務懈怠を判断するに際しての考慮要素などを詳細に述べており、参考になります。

 

 

 

(参考文献)

弥永真生「本判決評釈」ジュリスト1563号2頁

 

企業法務に詳しい川井弁護士のコメントも参考になります。

会計限定監査役の任務懈怠責任に関する最高裁判決(最判令和3年7月19日)について、第1審、控訴審、最高裁判決を読んでのコメント - 弁護士川井信之の企業法務(ビジネス・ロー)ノート (livedoor.jp)

 

今回の記事は以上です。

少しでもみなさんの参考になれば幸いです!!

それではまた!!!

  

 

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