こんにちは、コポローです。
今回は『令和3年度重要判例解説』で掲載された会社法・商法の判例のうち、受験生・LS生が読むべき重要判例をピックアップして、そのポイントをまとめたいと思います。
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商法1事件 会社法206条の2第4項の総会決議を欠く新株発行の効力(東京地裁) 重要度A
判旨のポイント:会社法206条の2第4項但し書き(事業継続のために緊急の必要があるとき)に該当しない事例において、総会決議を欠く新株発行に無効原因を認めた。ただし、差止の機会が保障されていたとは認めがたい事案におけるものであることに注意。
解説:206条の2は、平成26年会社法改正で創設された条文で、本判決が初めての判決。平成26年会社法改正は、予備試験でしばしば出題されており、今後も、司法試験・予備試験ともに出題の可能性がある。時間のある人は、ぜひ、重判の解説も読んでほしい。
商法2事件 新株予約権の行使に応じてする新株発行差止めの仮処分(名古屋地裁一宮支部) 重要度B
判旨のポイント:①新株予約権発行の無効事由を新株発行と同様に限定的に解した(有利発行や不公正発行であるだけは無効事由とはならず、差止の機会が保障されていなかった事情も必要)、②新株予約権の行使による新株発行の差止めの根拠規定を120条の準用あるいは類推適用とした、③新株予約権の有利発行該当性について、最判平成27年2月19日(百選4版21事件)と同様の基準を用いた。
解説:新株予約権発行と新株発行とをパラレルに扱っており、特に異論はなさそう。
商法3事件 差別的行使条件付新株予約権の無償割当て差止めの仮処分(東京高裁) 重要度A
判旨のポイント:MBO中に、MBOに反対して敵対的買収(市場買付け及び公開買付け)を仕掛けてきた買収者に対して、取締役会限りで、買収防衛策として、差別敵行使条件付きの新株予約権の無償割当てが行われた事案において、支配権維持・確保の目的を認定した上で、買収者が経営方針等について具体的な回答をしなかったことをもって真摯に合理的な経営を目指すものではないとは断ずることはできないとして、不公正発行として(247条2号類推)差止めの仮処分を認めた。
解説:日本アジアグループ事件として、話題になっている判例。学説の評価もまだ定まっていないと思われれる。主要目的ルールに基づき、①有事に取締役会限りで行われた新株予約権の無償割当てを支配権維持目的と認定した点、および、②支配権維持目的でも例外的に新株予約権の発行が正当化される「特段の事情」の存在を当該事案で認めなかった点で、ニッポン放送事件に係る東京高判平成17年3月23日百選第4版97事件と同様である。
※令和3年は他にも、買収防衛策関係で重要な判例が相次いでおり(日邦産業事件など)、今後、議論が深められると予想される(ニッポン放送事件・ブルドックソース事件が出た頃と似ている)。
商法4事件 株式の併合と株主総会決議の瑕疵の有無(札幌地裁) 重要度B
判旨ポイント:閉鎖会社において、反対株主の締め出しを目的とする株式併合が行われた事例で、少数株主の締め出しを目的にしているからといって、直ちに会社法109条1項(株主平等原則)の趣旨に反するとは言えないとした。また、会社経営の転換期を迎えたY社で、意思決定の円滑・迅速化のため、反対株主を排除し、安定株主による支配権を確立することを目的として株式併合を行うことは、正当な事業目的によるものでないとまではいえない。
解説:本判決は、少数株主の締め出しに、「正当な事業目的」を積極的に要求しているわけではない。あくまで、原告側の主張に応答して、「正当な事業目的」がないとまではいえないと判示したもの。学説の多数は、会社法上の手続が遵守され適正な対価が支払われる限り、締め出しは適法で、「正当な事業目的」は必要でないと解している。
商法5事件 株式買取請求をした株主と会社法318条4項にいう「債権者」 (最高裁) 重要度A
判旨:会社法182条の4第1項に基づく株式買取請求後に仮払いを受けた株主は、価格が確定されるまでは、株主総会議事録閲覧謄写請求権者たる『債権者』に当たる
解説:本判決の射程は、318条4項以外の「債権者」の権利にも及ぶし、182条の4第1項以外の株式買取請求権にも及ぶ。
本最高裁判決については、本ブログでも、以前、やや詳しめに紹介しています。
商法6事件 監査役が1人である場合の報酬額の決定 (千葉地裁) 重要度B
判決要旨:①監査役1名の会社で、株主総会が報酬の上限額を定めている場合、監査役はその範囲で自己の具体的報酬額を決定できる、②任期途中での報酬額の増額も上限の範囲内であれば(会社の同意がなくても)有効である、③②について善管注意義務違反が問題となり得るが、本件では、監査役減員による負担増などの事情があり、他社との比較を行っているから、判断の過程・内容に明らかに不合理な点があるとは言えない。
→具体的な事案をもとにした判例で、細かい設定を変えるなどして、試験に出しやすそうです。
判決要旨
「監査役は,会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではない。監査役は,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも,計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため,会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め,又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。そして,会計限定監査役にも,取締役等に対して会計に関する報告を求め,会社の財産の状況等を調査する権限が与えられていること(会社法389条4項,5項)などに照らせば,以上のことは会計限定監査役についても異なるものではない。
そうすると,会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。」
解説
まず、表題が会計限定監査役の任務となっていますが、判決の議論は監査役一般に及んでいる点に注意してください。
原判決は、監査役が計算書類等の監査を行う際に、特に疑わしい事情のない限り、会計帳簿の記載内容が正確であることを信頼してよいとして、いわゆる信頼の原則・信頼の権利を妥当させました。
しかし、最高裁も述べるように、法律の条文では、「監査役は,計算書類等につき,これに表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめるなどして監査を行い,会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見等を内容とする監査報告を作成しなければならないとされている(会社法436条1項,会社計算規則121条2項,122条1項2号)」とされています。
こうした法律の条文と原判決の上記判示は整合的でなく、原判決に対しては強い批判がありました(弥永真生・ジュリ1541号3頁等)。よって、最高裁が原判決を破棄した点は妥当と思われます(弥永真生・ジュリ1563号3頁)。
「では、どのような監査を行うべきか?」という点は、まだ議論の途中です。草野裁判官の補足意見や、重判の解説等を参照してください。
本最高裁判決については、下記の記事で、補足意見も含めて、やや詳しめに紹介しています!
判旨
利息制限法は,主として経済的弱者である債務者の窮迫に乗じて不当な高利の貸付けが行われることを防止する趣旨から,利息の契約を制限したものと解される。
社債については,発行会社が,事業資金を調達するため,必要とする資金の規模やその信用力等を勘案し,自らの経営判断として,募集事項を定め,引受けの申込みをしようとする者を募集することが想定されているのであるから,上記のような同法の趣旨が直ちに当てはまるものではない。
社債の利息を利息制限法1条によって制限することは,かえって会社法が会社の円滑な資金調達手段として社債制度を設けた趣旨に反することとなる。
もっとも,債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し,社債の発行に仮託して,不当に高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど,社債の発行の目的,募集事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合には,このような社債制度の利用の仕方は会社法が予定しているものではないというべきであり,むしろ,上記で述べたとおりの利息制限法の趣旨が妥当する。
そうすると,上記特段の事情がある場合を除き,社債には利息制限法1条の規定は適用されないと解するのが相当である。
解説
社債に利息制限法の適用があるかについては、長年、争いがあった。最高裁は、原則として適用を否定し、利息制限法の潜脱が企図されたなどの特段の事情がある場合にのみ、適用されると判示した。
本判決についても、下記記事で詳細に紹介しています。
商法9事件 監査法人の社員の持分払戻請求と商事法定利率(東京地裁) 重要度C
判旨:①監査法人の業務は営利目的であり、監査法人は商法上の商人である(商法502条5号、4条1項)、②監査法人が社員から出資を受ける行為、社員との間で報酬の合意をする行為は附属的商行為(商法503条)に該当するため、遅延損害金に商事法定利率(平成29年改正前商法514条)が適用される。
解説:監査法人の商人性を認めた点で注目されるが、重判の解説(清水真紀子教授)は502条5号「作業又は労務の請負」に該当するのは無理があるとして、反対する。なお、民法改正で商事法定利率は廃止となった。
商法10事件は金商法の判例で、試験的には重要度が乏しいので、省略します。
以上、『令和3年度重要判例解説』の要点解説でした!
気になる判例については、重判の解説もぜひ読んでみてください(^^♪
それでは、また次回!
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